宇野常寛はなぜ最新作でサブカルチャーの時代を「過去形」で語ったのか?
宇野常寛さん3月毎日更新 Q30. 「今、サブカルチャーというジャンルの中で宇野さんが「面白い!」と思うのは何ですか?」
過去形になったからこそ得られる視点もある
「これ!」という作品やジャンルは特にないんですよね。でもまあ、最近は欅坂46の躍進なんかもすごいと思うし、2016年の出来事でいえば「ポケモンGO」現象は結構興味深かったですよね。『君の名は。』は社会現象になりましたし、『シン・ゴジラ』や『この世界の片隅に』もあれだけ盛り上がって、こういった作品に関してもたくさん言及してきました。
ただその一方で今年は『BANANA FISH』や『銀河英雄伝説』がアニメ化されたり、2月に、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』が、行定勲監督の手で映画化されたり、中年向けのリメイク作品が並んでいる印象ですよね。僕は楽しみだけれど、これって端的にこれらのジャンルの「老化」だと思う。さっきも言いましたけれど、サブカルチャーの社会における機能が変わっている。
まあ、僕が活き活きと楽しくサブカルチャーを語ることって簡単なんですよ。これまでもたくさん語ってきましたし。今後もそういったサブカルチャーに関する仕事を手がけるかもしれませんが、その意味ってもう20年前とまったく違うんですよ。そういったこともあって、『母性のディストピア』でもサブカルチャーの時代を現在形としては書けなかった。読んでもらった人はわかると思いますが「かつてサブカルチャーの時代があった」といった過去形でしか書けなかったんです。
でも、悪いことばかりじゃないと思っていて、過去形になったからこそ得られる視点もある。要するに革命の代わりにサブカルチャーを、世界を変える代わりに自分の自意識を変えることばかり考えていた時代だからこそ成立した美学やノウハウを、現代の再び(経済と情報技術で)世界を変えられることが信じられる時代にどう活かすか、が僕の課題なんですよ。だから猪子寿之や落合陽一にコミットしている。そのことが気に食わない人もいるかもしれないけれど、僕は生き方の問題として、撤退戦は戦いたくない。そういうことですね。
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宇野常寛・著『母性のディストピア』
宮崎駿、富野由悠季、押井守--戦後アニメーションの巨人たちの可能性と限界はどこにあったのか?
宮崎駿論4万字、富野由悠季論10万字、押井守論10万字の作家論を中核に、アニメから戦後という時代の精神をいま、総括する。
そして『シン・ゴジラ』『君の名は』『この世界の片隅に』――現代のアニメ・特撮が象徴するさまよえるこの国の想像力はどこにあるのか?
『ゼロ年代の想像力』『リトル・ピープルの時代』とその射程を拡大してきた著者の新たな代表作にして、戦後サブカルチャー論の決定版。