[実話]ラクダ飼いを目指した日本人がエジプトの砂漠で死にかけるまで
ラクダ飼い・ベドウィン族の見習いになる
■ラクダ飼いの見習いになるしかない
「閉鎖っていうのは砂漠全域なのか? 規制の緩い地域とかはないのか?」
「……全域だね。リビア側の砂漠はリビア国境の問題があるし、シナイ半島側の国境付近にはISIL(イスラム過激派組織)もいる。あぁ、でもフルガダの町ならラクダもたくさんいるし、規制も緩いかもしれない。正確には分からないけど……。
あと君、ラクダの扱いは知らないだろ? ラクダの扱いが分かっている人ですら、ベドウィンのラクダを一頭だけ動かすのは難しいんだ。やるなら家族をセットで買わないとね。……そういえば昔、君と同じことを言ってきたイギリス人の女性にラクダを売ったことがあってね。彼女、一切ラクダを動かせずに数日で断念していたよ」
「なるほど……。分かった。考えをまとめるから、少しだけ待ってくれ」
……正直、この時は何をすべきか、すごく悩んだ。ちなみにフルガダというのはナイル川中流、西側の港町だ。規制が緩いかもしれない、といってもおそらく、砂漠のど真ん中を歩くようなことはできないだろう。海沿いならラクダと歩けるかもしれない。もちろん一頭だけ買って動かせるのなら、だけど。残念ながら、ベドウィンのラクダを二頭以上買う金は持ち合わせていなかった。
……例えばキャッシングで借金をして、ラクダを二頭買ったとして、砂漠に行かず町の周りか海沿いを歩いて、おれは満足できるんだろうか。そもそも海沿いの安全なルートなら、ラクダではなくロバ(一頭一万五千円ほど)でも十分な気がする。
……おれはそんなことがしたかったんだろうか。
いや、絶対に違う。そう思った。
海岸や森ではなく、太陽が容赦なく照りつける果てしない砂漠を、この足で歩いてみたい。そして、いつの日か、単独でサハラ砂漠を横断してみたい。そのためには屈強なラクダが絶対に必要だと考えて準備をして、ここまで来た。このままでは警察の世話になるならないにかかわらず、確実に中途半端な結果にしかならないだろう。……とても悩んだ。
少なくとも今の時期は、思いっきり砂漠を旅することは不可能だろう。
とはいえ、最終的にはサハラ砂漠を単独で横断できる力を得る必要がある。おれはじっくりと考えた結果、今回の旅で自分がどうすべきかが分かった気がした。
「サリーマン、おれを雇って欲しい」
こうしておれは、ラクダ飼い見習いとしてベドウィン族の村、マホウブで暮らすことになった。物価の関係上、お金はもらったところで雀の涙程度だと考え、いらないと言ったが、住む所とご飯を毎日いただくことになった。
<『-リアルRPG譚- 行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』(電子版もあり)>
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