植物を活かすサスティナブルな社会。鍵は過去にある。【植物採集家の七日間】
「世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。」連載第6回(最終回)
■鍵は過去にある。着物の文化と持続可能な社会
衣装は白無垢と決めていた。仕事では何度も結婚式の衣装撮影に立ち会っていたが、なぜか自分には白無垢がいいだろうと感じていた。
結婚式の衣装はレンタルでも、購入でも金額が大きく変わらない場合が多い。1度しか着ることのできない花嫁衣装を購入するのはもったいないと感じていたため、選択肢はレンタルだった。せっかくならば、大切な人から、とっておきの1着を借りたいものだ。私は長くお仕事をご一緒している与儀美容室でお貸ししてもらうことにした。
老舗である与儀美容室の仕事では季節ごとに、人生の節目となる着物に出会える。七五三や成人式、結婚式で親子三代続く大切な着物を着る方も多い。私の中でもエピソードを聞いているうちに、着物で晴れの日を迎えるイメージが刷り込まれていったのかもしれない。
1着の衣装、1日しか着ないものを選ぶことが喜びとなり、生きる勇気を与えてくれることがある。特別な日の幸福度を上げるという面で衣装はとても重要な存在だ。しかし、着物は元を辿れば私たち日本人の日常着。長年大切に着続けていくための知恵が数多く蓄積されている。代々受け継いで着続けていくための丁寧で丈夫な織物の製法や桐ダンスでの保管。古い着物を生き返らせる「染め替え」、仕立て直しなど、1つの衣装を繋いでいく手法は、持続可能な社会に向けたヒントとなる。
結婚式を行うことが、これまで興味が薄かった衣装について考えるきっかけをくれたのだ。
■ファッションは贅沢なのか? 衣食住のあらゆるシーンでウェルビーイングが叫ばれる時代に
私たちを取り巻く環境、衣食住の中でもとりわけ衣に関しては移り変わりが早い。衣装に関して興味が薄かったのはこれが大きな理由で、表面的に繕う存在が衣服だと感じていたのだ。
生きる糧となる食、心身を守る住は大切だと思っていた。しかし、新型コロナウイルスの影響で多方面において不自由な生活となった今、改めて衣の重要性を感じるようになった。
私たちはなぜ服を着るのだろうか。被服には4つの機能がある。安全に清潔に生きるための防御機能と衛生的機能、安心して心豊かに過ごすための心理的機能、自信を保つための社会的な機能である。私たちが健康で生きるために必要とする機能とほぼ同じである。
これほど重要な機能を持つ衣が「不必要」であるはずがない。必要がないのは衣服ではなく、過剰な供給と使い捨ての思想だ。ファッションを楽しむことが人生を彩ることは間違いない。けれども、私たちは自分さえ良ければいいという時代は終わり、ウェルビーイング、いかによく生きるかの時代に突入した。