「地獄の釜のフチにようこそ」ベテラン小説家が伝えたい業界の現実
本のプロが読む、額賀澪『拝啓、本が売れません』(小説家 鈴木輝一郎さん)
「ブログやSNS全盛の時代にエッセイを読ませるのはかなりハードルが高い。あえて挑戦する心意気と志の高さは、大きな武器です」
――小説家 鈴木輝一郎
初々しくて可愛らしいエッセイですね。
「地獄の釜のフチにようこそ」って気分になりますな。いい本です。
ぼくは平成3年のデビューなので、著者とほとんど同い年です(違)。小説家は自分が語るのはうまくても聞くのはヘタクソなものですが、額賀さん、インタビュアーとしてもいい腕をしています。この逆に、聞き上手は自分語りが下手なものですし。
聞いてよし、語ってよし、と両方OKなのは、ほかには川奈まり子さんぐらいしか思いつかないかな?
企画の立て方もいい。
本当に「新人の目からみた業界」で、ダークなところやヘビーなところはていねいにはずしてあるのもいいっすね。
すがやみつる『マンガでわかる小説入門』(http://amzn.to/2EKimhw)を読んだとき、返本の断裁処理工場の現場写真が掲載されていて、「ひええ」と思ったもんでござんした。
あと4~5年経つと、毎年知り合いが何人か首を釣ったり孤独死で腐ったり(比喩ではなく検死的・医学的に)するようになる。「3日間音信不通なら生死を疑え」って、けっこう鉄則だったりしますから。
円形脱毛症で全ヅラかぶることになったり(ぼくは普通の男性ハゲです、ねんのため)、アル中やヤク中、睡眠薬依存でやたらに安定剤に詳しくなったりするのはこれから。
我々の時代は「永久初版作家(大沢在昌さんがよくそう言ってましたな)」とか、「売れない作家」ってのがいましたが、いまは返本率がシャレにならなくて、「売れない作家」は存在できなくなってきてる。そこいらが新しい作家が可哀想なところではありますね。
西村京太郎さんは十津川警部が当たるまで14年かかってるかな? オール讀物推理小説新人賞を取って売れず、乱歩賞を受賞しても売れず、推理作家協会賞を取っても売れず、って具合だったそうなんで。
ものすげえどうでもいいことですが、初版部数で思い出した。俺、ふだん「10年前から初版部数がかわらない」のを自慢してるんですが、よく考えたら、デビューして27年、初版部数を削られた経験がないよ(^_^;) 推理作家協会賞の受賞作の初版部数よりも、『桶狭間の四人』の初版部数がほぼ倍、っていう……いいんだか悪いんだか、よくわからんのですが。
ともあれ、ブログやSNS全盛の時代にエッセイを読ませるのはかなりハードルが高い。あえて挑戦する心意気と志の高さは、大きな武器です。
(小説家 鈴木輝一郎)