ポリコレ・ヒステリーは「社会の進歩に伴う問題」かもしれない【藤森かよこ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ポリコレ・ヒステリーは「社会の進歩に伴う問題」かもしれない【藤森かよこ】

単なる偏狭な言葉狩りにしないためにソーシャルメディアの改革が必要

 

 

■日本のネット界のポリコレ騒動もまた「進化」への副作用ならば次にすべきことは?

 

 さて、日本のポリコレはどうか。アメリカのポリコレ騒動は、大学などが中心になっているが、日本ではもっぱらネット界のソーシャルメディアの中に限定されている。ネットが騒いで、テレビがちょっと言及するという形だ。

 たとえば、

 

◆お惣菜が「おかあさん食堂」という名称で売られるコンビニのコーナーについて、「料理は母親だけがすると前提している。女性差別だ」と批判された。

◆某俳優が「髪は嫁に切ってもらう」とインタビューで発言し、「嫁」という言葉が女性差別だと批判された。

◆大学のオンライン授業で、zoomに上半身裸の男子学生が映っていたのは性的嫌がらせであると女子学生の親が大学に抗議した。

◆ある研究者がある女性歌手の発言について批判して「夭折すべきだった。醜態をさらすより早く死んだほうがいいと思います。ご本人の名誉のために」とTwitterに投稿したら、その研究者の勤務先の大学に抗議が殺到し、大学が反省文を大学のウェッブサイトの冒頭に掲載した。

◆東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長が、「女性は会議で話が長い」「他の女性が意見を言うと競争意識で自分も意見を言うので会議が長くなる」と発言し、国の内外から抗議され、辞任要求署名運動が起き、辞任した。

 

 あからさまな女性差別は指摘され非難されるべきである。しかし、ついつい私は思ってしまう。

 そもそも「おかあさん」が食事を作るのが当たり前の日常ならば、コンビニに「おかあさん食堂」という総菜コーナーは設置されない。つまり「おかあさん食堂」は、母親や女だけが食事を作っていない状態をあたりまえに前提としている。「おかあさん食堂」は、すでにオワコンの過ぎてしまった「毎日ご飯を作る女性」への郷愁でしかない。その証拠に、「おかあさん食堂」のキャラクターは、女装した香取慎吾だ。薬師丸ひろ子じゃない。

 それから、自分の妻を「嫁」と呼ぶのは個人の自由ではないだろうか?「嫁」という言葉も差別用語になっているのだろうか?ならば、大昔の流行歌の「瀬戸の花嫁」は差別の歌か?

 それから、大学生にもなって、男子学生の裸の上半身ごときに動揺するなど幼稚すぎないか?見慣れないないからこそ、じろじろと熱心に観察して、今後の参考にすべきではないか?

 Twitterで他人に死んだほうがいいと書いて投稿するようなことは慎むべきであり、その投稿者本人に対して抗議するのはわかるが、投稿者の勤務先に抗議するのは過剰な攻撃ではないだろうか?

 いかにも「日本原人」的な80歳過ぎた男性が、不用心に口に出した女性差別的言葉など、放置で無視でいいのではないのだろうか? 21世紀を生きて行く人間は、憐憫の情をもって、旧態依然とした「日本原人」の退場を生温かく見送ればいいのではないか?

 私自身は、ネットの中のポリコレ騒動に対して「幼稚でヒステリックだなあ」という思いを否定できない。

 しかし、こういう騒ぎが起こり炎上することが反復されれば、日本社会からあからさまな性差別的言動は少なくなっていくであろうとは思う。人々はより一層に言動に気をつけるだろうとは思う。性差別的言動への抑止効果はあると思う。

 だから、日本のネット界のポリコレ騒動もまた、前述のクリッツアーが「進化への副作用」(problems of progress)だと表現したものと同じなのかもしれない。進化にともなう問題なのかもしれない。

 ならば、次にすべきことは、今は幼稚でヒステリックに見える日本のネット界のポリコレ炎上騒動を、より成熟した、より開かれた、より冷静で、社会に対立や二極化や分断をもたらさないような前向きな論争に変化させることなのだ。

 2021年315日月曜日に、日本の警察内に初めて設立された(という架空の)「ネット中傷誹謗による殺人事件捜査を専門とする指殺人対策班」を題材にした東京テレビ制作の「アノニマス」という連続テレビドラマの最終回が放映された。このドラマは通常のテレビ視聴率は高くなかったが、見逃し配信「TVer」での視聴率は高かった。それだけ、ネット界の誹謗中傷炎上の問題は視聴者の関心の高いテーマなのだ。

 まずは、日本でもネット界やソーシャルメディア(SNS)での匿名者によるポリコレ・ヒステリーを、より建設的な冷静な議論に変換していくことが課題だろう。

(文:藤森かよこ)

 

 

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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