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日本人は「安楽死」を望めるのか?【呉智英×加藤博子】

呉智英×加藤博子が語りあう「死と向き合う言葉」

 


「死とはいったい何か?」「悔いなく死ぬためには、死をどう考えればよいのか?」——人生100年時代に、死は遠い先のことであり、まるで他人事のように思える。メメント・モリ(自分もいつか死ぬことをわすれるな)。死は誰にでもやってくる。そう考えたとき、死はやはり恐ろしいと思うか、それとも、「死に方」が問題だと考えるか。あの有名な哲学者や思想家、宗教家や文学者は死をどう捉えてきたのだろう? 当代一の知識人・呉智英氏と文学者・加藤博子氏が、古今東西の名著を紐解き、死を語り尽くした書『死と向き合う言葉――先賢たちの死生観に学ぶ』KKベストセラーズ)が発売早々、ベストセラーとなっている。今回は「安楽死」の問題について語りあう。果たして日本人は安楽死を望めるのだろうか?


 

 

■安楽死の問題

 

加藤:ケーガンの本は、最後に自殺の考察に至ります。現代では、健康志向の一方で、逆に死にたがる病気にかかっている人々も多くなっています。自分の生涯は自分のものとしてコントロールしたいと思って自殺する文学者や思想家もいる。自ら終わらせることで、人生の意味づけを決定し、演出することができるからでしょう。生きている間に盛んに表現していたことよりも、死に方のほうがずっとインパクトが大きい場合もある。江藤淳(1932~99/文芸評論家)や西部邁(1939~2018/評論家)も、今となっては、その自殺という死に方が強い印象を残しています。もちろん、死は逃げでもあるでしょうが、しかしやはり自殺して何が悪いのかという感覚が、世間に蔓延している面もあります。寿命が延びたから、こんな贅沢が許されているともいえますが、この自殺願望をどう捉えるかを考察したケーガンも、結局、別に自殺は悪いことではないと書いている。そうしたいなら勝手にすればいいのだから。むしろ、なぜ自殺してはダメなのかを説明しなければならない時代になったといえるでしょう。

 

ーーーお二人は、自殺はどうなんですか? 肯定しているんですか?

 

呉:俺は、基本的には肯定です。キリスト教的な世界観では、命は神が与えてくれたものであり、自殺は神に対する冒瀆(ぼうとく)だとする。自殺を犯罪にしている国があるらしい。

 

加藤:旧東ドイツも、そうでしたね。

 

呉:でも、死んじゃったら罰しようがないじゃないかなぁ。

 

加藤:名誉が奪われる。自己殺害犯って呼ばれるんですよ。

 

呉:でも、せいぜい名誉でしょう。自殺したら、子供たちに遺産が継承されないとかならわかるけど。

 

加藤:そもそも共産圏ですけどね。今の日本でも、自殺だと保険が下りないとか、そういう経済的ペナルティはありますね。

 

呉:基本的には自殺は法的にも道徳的にもよくないということになっているけど、日本においては、先にも触れた『楢山節考』のおりんばあさんや、切腹の問題もある。だから、日本の場合は、納得できるという自殺もあるよね。

 

ーーー日本では神からもらったとは言わないけど、親からもらったと言いますよね。

 

呉:だから、親に対して申し訳ないというのはあると思う。親に恩返しもできずに若くして死ぬのは親不孝だとか。でも、軍人が負け戦(いくさ)の責任を取って切腹するときにはそうは言わない。

 

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