「うつ病で休職し、家を建てた」社員。職場に蔓延するモラルハザード、産業医の告白
「あたなは“うつ”ではありません」産業医の警告1
【病気ではない人も精神疾患にしてしまう、現在の診断基準】
健康な人でも、家を買うには一大決心が必要でしょうし、各種の契約や業者との打ち合わせなど、心身ともにかなりのエネルギーを必要とする行為であるはずです。「外出するエネルギーはないが、家を買うエネルギーはある」というのは、常識的に考えて病気ではありえません。
誤解のないように言っておきますが、私は決して「うつ病患者が家を買うなんておかしい」と主張しているわけではありません。
そうではなくて、田中さんのような明らかにうつ病とは思えないような人がうつ病だと診断され、本人もその立場を最大限に利用してまったく働こうとしない――そんな現実がおかしいと訴えたいのです。
田中さんほど極端ではないにしろ、似たようなメンタル休職の例は、もはや社会問題と言えるほど巷に溢れています。
その直接的な原因は、精神科(心療内科も含む)を訪れた患者に対し、医師が安易にうつ病の診断を下すことにあります。
そう言われると、おそらく精神科医の先生方は反論されることでしょう。
「私は世界的に認められた診断基準に従って患者を診ているのであって、独断と偏見で誰でも彼でもうつ病だと診断しているわけではない」と(実際に精神科医とのやり取りの中で、このように言われたことも少なからずあります)。
確かにその通りです。今日、ほとんどの精神科医は「DSM」という世界的に認められた診断基準に基づいてうつ病やその他の精神疾患を診断しています。そして、それが科学的根拠に基づく医療行為であると信じています。
しかし、このDSMが問題なのです。
(取り上げる事例は、個人を特定されないよう、実際の話を一部変更しています。もちろん、話を大げさにするなどの脚色は一切していません。また、事例に登場する人名はすべて仮名です。本記事は「あなたは“うつ”ではありません」を再構成しています)。
<次回は「DSM」の問題点について田中さんのその後とあわせて紹介します>
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