観光資源は少なくても…「地名変更」だけで全国的な知名度アップに
【地名の謎と歴史】イメージしやすい地名ブランディングで経済効果がアップ
由緒ある地名が失われると、批判されることもある市町村合併と名称変更。しかし、イメージしやすい地名に変更することで名が広まり、地元にメリットをもたらす例もあるという。(一個人増刊『47都道府県 地名の謎と歴史』)
■地名のブランド化で地域活性化
歴史や伝統に由来する地名を乱暴に消し去る暴挙、という批判も多い自治体合併による地名変更。しかし、そこに思いもよらぬメリットが出てくることもある。そんな一例が、新名称ブランド化による経済効果だ。
直近では、平成11年から実施された平成大合併によって、日本の市町村は1730にまで集約された。明治21年には7万を超えていた町村数は、明治、昭和に続く3度目の大合併の結果、40分の1程度にまで減少したのだ。
「確かに、平成の大合併は必ずしも前向きの施策とはいえない要素が大きいです。市が大きくなったことで中心部が遠くなり、交通網も未発達な地域では移動手段に困る人もいます。そもそも、合併の目的は、人口減少・少子高齢化といった社会情勢の変化に即し、地方分権の担い手となる各自治体にふさわしい行財政基盤を確立し、危機を脱しようというものでした」と地名のスペシャリストである日本地名研究所の菊地恒雄さん。
しかし、そんななか、合併後の新自治体名をブランド化することで、人口減少抑制や知名度アップ、経済発展など成功した例も出てきているのだ。その代表といえるのが山梨県の南アルプス市である。
■新市名で観光客が増加した南アルプス市
合併を経て新設された自治体名には、さいたま市などその土地の旧名をひらがな表記にしたり、地方ごとの特徴を新たな名称に据えたものなどが少なくない。なかには、この機会を利用して、全国的に周知されやすく、土地の情報をそのまま名称にしたものもでてきた。南アルプスという新市名はまさにそのケースといえる。
平成15年4月1日、旧八田村、白根町、芦安村、若草町、櫛形町、甲西町の6町村が合併したのが南アルプス市。カタカナが入った市名はもちろん日本初、さらに名称のインパクトとともに所在地のイメージがつきやすい点は、ある意味、画期的といえた。
「アルプス」の名を冠することで、主要産業であるフルーツも、雄大な自然のなかで伸び伸びと育った美味なものだと連想しやすい。市の財政に直結する観光産業にとっても新市名は有利に働くと予想できたはずだ。
平成16年の「山梨県観光客動態調査結果」によると、合併直後であるこの年、南アルプス市芦安温泉周辺の観光客は約40万人となり、前年の約23万人と比べて75・5%の増加となった。これは山梨県の中域における観光客数のなかで、最も前年との差があった場所である。
南アルプス市となった地域は、名所旧跡温泉などがもともと少なかった。それにも関わらず、合併をきっかけに観光関連の数値の多くが増加へと転じている。それは合併による新市名が全国的な関心を呼び、その土地を付加価値化させた結果だと考えられる。
旧地名が失われることは、その土地の人たちにとっては残念なことかもしれない。しかし、自分たちが住む土地の潜在価値を再発見し、活用することこそが、地名ブランディングといえるのではないだろうか。
(『47都道府県 地名の謎と歴史』より抜粋)