「うつ病診断」ですり替えられる労働環境問題
「あたなは“うつ”ではありません」産業医の警告3
「うつ病の休職中にローンを組んで、家を建てた社員」という実例に続く第三回。
――「あなたはうつ病ではありません」
自分がうつ病かもしれないと思って精神科を訪れた患者に、そんな言葉をかける精神科医は、まずいない――。そう断言するのは「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏だ。
なぜなのか。
山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』では「精神科医の安易なうつ病診断が、労働の現場にさまざまな問題を引き起こしている」と指摘し、「現在のうつ病のパラダイム(大多数の精神科医の間で共有されている、うつ病に対する考え方)を変えない限り、今後もうつ病に関連するさまざまな問題が怒り続ける」と警鐘を鳴らす。
山田氏が見てきた現場におけるモラルハザードともいえる事態を『あなたは“うつ”ではありません』より紹介する。
ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】
【事例②休職を利用して海外旅行へ】
うつ病診断の現状がいかにおかしなものかを知ってもらうために、もう少しエピソードを紹介させてください。DSMに基づく今日の診断基準では、次のような人達もうつ病だとされるのです。
私が産業医を務める金融会社B社に鈴木さん(仮名)という30 代前半の女性がいました。
鈴木さんは営業職で社交的な性格でしたが、上司とそりが合わず、自分の能力が評価されていないことや、希望の部署に配属されないことをいつも不満に思っていました。そうした仕事上の悩みが積み重なって精神科を受診すると、すぐにうつ病だと診断されたそうです。
当時の私はうつ病に関して現在のような問題意識をもっていなかったので、鈴木さんに「気分が落ちこまないように、ゆっくり休んでくださいね」といった言葉をかけた程度でした。
1ヶ月後、面談に来た鈴木さんに近況を訪ねてみると、驚きの答えが返ってきました。うつ病で休職している間に海外旅行を満喫してきたというのです。
鈴木さんからすれば、ゆっくり休んでいいと言われたので休日を利用して海外旅行を楽しんだだけという感覚なのかもしれませんが、私は「なぜこんな元気な人がうつ病と診断されたのだろう」と精神科医療に疑問を抱くようになりました。
【事例③仕事をするエネルギーはない、でも結婚するエネルギーはある?】
続けて紹介するのは、食品メーカーC社に勤める30 代の男性、木村さん(仮名)のエピソードです。