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さようなら平成……「静かなる激動の時代」を振り返る

『一個人』5月号「平成10大トピックス」こぼれ話

 気づいたら平成は今年でもう30年。昭和生まれで幼少期、思春期、学生時代を昭和で過ごしてきたせいか、なじみのあるのはやっぱり「昭和」。30年も経ったのに「平成」という言葉がいまだに違和感があるのは私だけだろうか。
 昭和に比べると軽んじられがちな平成だが、改めて振り返ってみると30年間の歴史の重みみたいなものを感じることができた。

 

 平成研究家の後藤武士さんは、平成を「静かなる激動の時代」と評す。
 昭和といえば、満州国建国や太平洋戦争、大日本帝国から日本国へ、戦後の食糧難、高度成長期、電化製品の三種の神器、アジア初の東京五輪などさまざまな事象が思い浮かぶ。1世紀にも満たない64年間に、この国の形、ルール、価値観、風俗ががらりと変わった。対して平成は、もちろん阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件、東日本大震災など大きな出来事はあったものの、昭和ほどの派手さはない。ただ、「静かな激動」が続いているというのだ。

 たとえば人口問題だ。「あの太平洋戦争中でも増え続けていたのに、今は減り続けている。地味だけどとても深刻な問題」と後藤さんは指摘する。総務省統計局が平成27年に発表した国勢調査の人口速報集計結果では、大正9年(1920)の国勢調査開始以来、初めて人口の減少を記録。いよいよ日本は人口減少社会に突入したことを示唆した。

 

 後藤さんは言う。
「原因のひとつは家族制度が崩壊したこと。核家族化といわれて久しく、離婚も珍しくない時代。そうした社会の風潮が日本人の家族観に変化を与えたんじゃないかな」
 親兄弟に対して淡白になればなるほど、今度は自分が家庭を持つことの憧れが弱くなる。「結婚、そして出産」から「生涯独身」「子供をつくらない夫婦関係」へ。昭和までなら当たり前の概念が崩れつつあり、それが日本の将来をまるで真綿で首を締めるようにゆっくりと暗くしている。この問題解決には若者だけに意識改革を求めるのではなく、若者にそう思わせてしまった社会全体が取り組むべきだ。自分に何ができるのかと気持ちが引き締まる。

 ところで今回、『一個人』5月号の記事「平成“いいね”10大トピックス」で悩んだ末にボツになったのが「政治」の分野。小泉劇場やらアベノミクスやら、世間をにぎわせたキーワードは挙がるけれど、「それって明るいニュースなのか」…頭を抱えてしまった。小泉純一郎が首相当時、北朝鮮の拉致被害者を帰国させた一件は間違いなく明るいニュース。その一方で郵政民営化は…。いまだに賛否が分かれるところ(否の方が多いかもしれないが)だろう。小泉チルドレンにしても、彼らはどれほど日本に貢献したのか。

 いずれにしろバブル崩壊後の後始末的なイメージで「ずっと不景気」という暗雲がなんとなくたちこめていた平成の世の「明るいニュース」探しは楽しかった。「平成も悪いことばかりじゃないな」と、気持ちが前向きになり、少し心が軽くなった。今度の東京五輪はきっと新しい元号のもとで行われる最初のビッグイベントになるのだろう。どのような時代の幕が開くのか今から楽しみだ。さようなら平成。ありがとう平成。

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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