あなたを「天職」へと導くものとは? 「潜在的な自分」を引き出す方法
久瑠あさ美のメンタルトレーニング実況中継【第14回】
■本質を見極めるマインドトレーニング~人の心を創る「表現者」
久瑠:話を続けると、日々に対してちゃんと反応する繊細さと、今だという瞬間に迷いがないという大胆さ。この「繊細さと大胆さ」がキーワードです。武道にも共通することですよね。
『一流の勝負力』(2010、宝島社)と書いてからすぐ、武道を何十年、学んでこられた方、たとえば剣の道を本気で極めようといった侍のような方々がやってくるようになったんです。私の存在を書店で知ったという方の多くが、「自分が師と仰ぐ大山倍達先生の本の隣にあったから、思わず立ち読みしていて思わず買ってしまった」といったような出逢い方で読んでいただいて、その本を握りしめて、「先生!」みたいな凄みでいらっしゃるんです。
はじめは私も驚きましたが、そういったことが続くうちにだんだん驚かなくなり、「あ、来ましたね」と覚悟がストンと入り、丹田で受けて立つという私がいました。
そういう方はいらっしゃるときに「御主、これをどこで学んだ?」みたいな雰囲気で、本に書いた内容を誰かに学んできたのか、ということをすごくお知りになりたいようなんですね。
学んだという意味で言うと、様々な観点から心理学に限らず、広く関心のある分野を探求し学んできましたし、一通り本も読んできているとは思います。
それぞれの専門家の方や学者の先生方とも、何かについて論じ合うこと、各々の研究について語り合うことも多くありますが、どれほどの知識を目の前にしても、これまでの経験や体験を通して「そのとき何を感じられたのか」を私は何より大切にしています。そうした場面において、マインドについて私が感じていることをお話しすると、「久瑠さんが言っていることはこういうことだ、ああいうことだ」と、その方の専門分野における索引を引き出すかのようにして、その方自身の理路のなかでまた新たな観点として、整然と受け取っていただけますから、それ自体すごく楽しいですね。
一方で、私は表現者としてやってきた人間ですから、目の前に起きる現象について単に「そういうことなのだ」と事実・正論を伝えて終わりというだけではやっぱり面白くないし、響かない……という想いが根底にあります。人間というのは、いくら正しい話を聞いて、頭で理解できたとしても、それだけでは心が動かない。
ですから私の本を読んだ方には、頭で理解してもらうのではなくて「何か」を得てもらいたい、心に感動を生み出してもらいたい。事実に加えて、想いをもって真理という心の本質に働きかけていく「何か」を込めています。そこに込めた想いが、今の私の仕業の在り方にも繋がっていると思うんです。
「心の創り方」と一言で言っても、それはノウハウではないんですね。もう何百年前、何千年前から語り継がれてきたことなのに、人間にはなかなかマスターできない部分なわけです。だからこそ人間は、「ロゴス」とか「易」のような「人間には計り知れない万物の原理」をもって、そういったことを伝説のように語り継いできているのでしょう。
だからこそ、私の本は「知識を伝える」だけのものではない。私の本は「生きている」ものであって、悩みになっている部分や苦しんでいる部分に対して、一人ひとりフォーカスを向けられる。
同じように、メンタルトレーナーとしての仕事の醍醐味は、「何か変えたい」と思っている人が、今、この瞬間に実際に変わる。それを現実にすることなんです。自分自身がわからなくなり、見失いかけた本当の自分を取り戻していく瞬間、「誰かの人生」ではなく「その人自身の人生」へと、心の在り方が真に変わるとき、そこには感動があります。
そのために私が伝えているものは、理論でも正論でもない。ただ存在するのは、1つとして同じではない揺れ動く心というのもの。それこそが真実であり、真理なのだと思うのです。私は生徒の方から「先生」と呼ばれます。「先生」という言葉からは、どうしても「どんなときも正しい話をするものだ」と思われてしまいがちですが、私の在り方が「頭で理解させる」ことではなく「心を動かす」ことにあるのなら、「私、先生じゃないよな?」と思っていた時期があるんですね。そういう時期を経て、今のこうした在り方があります。
もし私が理にかなっているかどうかで正論を唱える人間だったら、私はきっといまのこの仕事をしていなかったと思います。何よりこれまでの人生においても、私自身を動かしたのは、そういった類の論や知識ではなく、トレーニングを受けに訪れた方の想い、つまり目の前で揺れ動いていた心でした。「その心に応えたい」それがその人と私自身の間に生まれた真実であり、実際に変わっていった皆さんの存在が、私を先生にしたんです。
POINT
「自分のマインドを変えたい」という願いに応えるのが、今の私の仕事です。