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風俗女子が自分自身、そして社会とつながるために大切なものとは?

「セックスワークサミット2017冬」レポート 後編

坂爪 風俗で働いていることの「語りづらさ」がリーガルアクセスの問題にもつながっているということですね。それを踏まえて岩切さんにお伺いしたいのですが、そうしたつながりづらさを法律という手段で少しでも緩和することはできるでしょうか?

岩切 つながりづらさは、「法律がこうなっているから」という理由だけで起こっているわけではないと思います。色々な要素があって、その中の要素の一つが法律なのであれば、変えられるし、変えるべきだというのが私の考えです。

 法律の中で一番のベースになっているのが、前述の売防法の3条です。条文を改正するところまではいかなくても、これはあくまで「やっちゃいけない」という訓示規定であって、効力規定ではない、という解釈に変更するというのは一つの技だと思います。

 売春はあくまで人身売買や搾取につながるからダメなのであって、道徳的にけしからんからダメ、という趣旨の法律ではないと再確認する。

 こうした解釈の変更によって、法的にスティグマの発生をさせないということになれば、つながりづらさを構成する社会的な要因の一つをなくすことができるのではないでしょうか。

 あとは労働条件の確立ですね。働く人の権利を法律上目に見える形で保障する、というのが重要です。具体的にどうするのかということまでは難しいのですが、方向性としてはそれが大事だと思います。

坂爪 道徳的にダメということではなくて、人身売買や搾取などはダメだよという形で条文を読み替える、ということですね。

 これまで頂いたご意見を踏まえて、次のテーマに移ります。健全営業の店が増えてきた半面、健全営業をすればするほど損をしてしまうケースもあります。それはどういう場面なのか。そしてそうした店が損をしないような仕組みをどう作ればいいのか、大崎さんにお伺いします。

大崎 警察関係の資料を見ると、風俗関連事犯の件数は年々減っています。これは警察が頑張っているという話ではなく、業界の自助努力です。内部で真っ当に営業している店舗が増えた。店舗や女性、ユーザーの数は、微増ではありますが右肩上がりです。全体的に見ると、業界のトラブルは年々減っている。これは全て数字として出ているので、間違いありません。

 脱税やぼったくりなどの違法行為に関しては、飲食業など他の業界でもあります。「風俗だから」という線引きに意味はないと思います。

 正直、法律や税金云々よりも、実務的な打撃として直面している業界内の問題は、性感染症です。検査を真っ当にやっている店舗ほど、大打撃を受けています。

 今世間で梅毒が流行っており、業界健全化のために検査をやろうと色々な団体が動いていますが、あまりにも性感染症が蔓延してしまっている。売上が2~3割減っているお店もあります。

 これは働く女性にとっても死活問題です。検査をやればやるほど、レギュラーで頻繁に出勤している女性であればあるほど、性感染症にかかるリスク、出勤できなくなるリスクが高まる。そのため、検査自体をやらない店舗も出てきている。

 これは性感染症になる人が悪い、という話では全くありません。性感染症に対してお店が懸命に対策を練れば練るほど、頑張って働いている女性にとってマイナスに働く。

 働く女性側以上に、ユーザー側にも検査を勧めないと解決しない。義務付けは難しくても、検査結果を持ってきた人は割引したり、検査していない人は割増という仕組みでもいい。

坂爪 性感染症の問題は、店舗や女性側の努力だけではどうしようもない。健全営業をすることの難しさとして、今後の大きな論点になると思います。

 風テラスをやっていく上で、健全営業の店舗と組むことは非常に重要だと思うのですが、この難しさに関して、浦崎さんはどう思われますでしょうか。

浦崎 先ほどキャストさんのつながりにくさという点で話をしたのですが、今まで支援者と呼ばれる専門家に決定的に欠けていたのは、女性にどうアクセスするかに気を取られて、お店というキーパーソンをすっ飛ばしてしまっていたことだと思います。

 風テラスが面白い切り口だと思ったのは、お店と連携して相談会の場所を貸してもらう点です。風俗で働く女性のリーガルアクセスを究極的に保障しようとすると、お店をどう巻き込むかにつながるし、そうしないとなかなか良い解決が難しい。

 今の性感染症の話とつながるかもしれないのですが、法律がお店の立場を弱くしている。現実的には、現場の歴史と知恵でうまく営業されていると思うのですが、法律家の立場からすると、この業界は行政の裁量権が強すぎる。多くのお店が真面目に営業していたとしても、ある日一部の業者のちょっとした凡ミスで大きな事件が起こってしまったら、全てが消し飛んでしまう。

 お店側にとっては、トラブルが発生した時、弁護士や警察につながろうとしても、「目立つことをして消されたらどうしよう」「逆に疑いをかけられたらどうしよう」と躊躇してしまう。

 お店が法律上弱い立場に置かれているということは、ひるがえってお店が外とつながる仕組み、そして支援者が女性とつながる仕組みを作りづらくしている。

 性感染症についても、一般の飲食店で食中毒が大流行したら、個々の店舗だけの責任ではなく、行政や保健所がどうかかわるか、という社会全体の仕組みの問題になる。

 しかし風俗の世界では、そうはならずにお店の自助努力、女性の自己責任の問題になってしまう。その背景にあるのは、風俗店の法律的・社会的な立場の弱さだと思います。

 だとすれば、女性の立場を強くするためには、お店の立場も強くする必要がある。今の段階でどういう形が望ましいのかを述べることは難しいですが、きちんと法的に守られた形を作っていかないといけないのではと思います。

坂爪 店舗側の法的な立場が確立されている方が、結果的に働く女性、そして社会の側にもメリットがある、ということですね。

 そこで岩切さんにお伺いしたいのですが、キャバクラなどの風俗営業は許可制ですが、デリヘル等の性風俗関連特殊営業は届出制になっています。業界の一部で、デリヘルを許可制にしたらどうかという意見が上がっています。現実的に可能かどうかという議論は置いておいて、一つのアイデアとしてどう思われますか?

岩切 行政法学においては、届出制よりも許可制の方が規制のかけ方が重い。業者から見れば、「できれば許可制より届出制の方がいいよね」というのが通常です。

 しかし風営法の場合はそれが入れ替わっておりまして、「許可」としてしまうと、国がお墨付きを与えているように思えてしまう、こんないかがわしい業界に許可なんて出せるか、というのが国のスタンスです。

 しかし性風俗に関しては、届出制の中でも立地規制など非常に重い規制がかかっているので、事実上許可制に近いと言えます。あくまで名称の違いでしかない。

 他方で国や警察が「適正」営業の方向性を示すというやり方自体がそもそも望ましいかについては議論の余地がある。風営法の枠内で許可制にすることが、お店や働く人たちにとってハッピーな結果になるかというと、必ずしもそう言えないのではと思います。

坂爪 許可制にすればOK、という単純な話ではなく、届出制の中で調整するという選択肢もありうるということですね。

大崎 私も業界の健全化を目指している立場ですが、あえて業界側の立場から述べさせて頂きますと、法律でガチガチに締めることは確かに大事なことですが、一定の「遊び」は必要です。自動車のアクセルやブレーキも、多少遊び(猶予範囲)があるじゃないですか。遊びが無くなったら事故だらけです。

 ビジネスも遊びがあるからこそ、利益と生産性を上げることができる。この見解に関しては、警察側も「猶予をもたせてやっている」と意識している。その上で「目につくことをしたら摘発するぞ」という考えだと思います。

 我々の業界では、デリヘルの経営者が客の待つホテルの密室に女性を派遣した時点で「本番をやっている」とみなされてしまうという判例が下ってしまっています。

 これは「未必の故意」と言われているもので、仮にお店が「本番はダメだよ」と普段から女性に指導していたとしても、もしかしたらそういう行為が行われているかもしれない、と思って店を運営している以上、罰則の対象になるということです。警察に摘発されたら、弁解の余地が無い。

 何が言いたいかというと、そうした判例が出た以上、警察の裁量次第でどうにでも摘発の対象になりうるのが我々の業界だということです。

 経営者側も、その点を自覚して運営している。あくまで猶予範囲の中で「警察に生かしてもらっている」という見解の経営者が多いですね。

坂爪 これはまさに権力の濫用だと思うのですが、岩切さん、いかがでしょうか。

岩切 まさしくおっしゃる通りで、それこそが法の空白地帯だと思います。風営法における「適正」というのは、あくまで警察のイメージする適正さであって、一般的な感覚からはかけ離れている。それを法律の中で追求するのはどうかと思います。

浦崎 法律家としての感想ですが、ルールが曖昧でいつ摘発されるか分からないという状態は、ルール自体がおかしいと言えます。きちんと法律を守って営業していれば、5年、10年後も仕事ができますという状態になっていないとおかしい。

 警察も間違えることは山のようにあります。そのとき時に損害賠償なり国家賠償なり、ルールにのっとって戦えるような法律でないとおかしい。多少の遊びは必要であるにせよ、「ここをちゃんと守っておけば大丈夫」というベース自体が存在しない、というところは問題だと思います。

坂爪 そうした法的な空白地帯、行政の裁量によって色々なことが進められてしまう世界において、働く人たちの権利擁護をどう行っていけばいいのでしょうか。もし先行事例があればお伺いしたいのですが。

浦崎 全てを法律で規制すればいいわけではない。現場の人たちが何に困っているかをもっと発信していかないと、ちぐはぐな法律ができてしまい、逆にスティグマを強めてしまう結果になる。

 先行事例に関しては、例えば、外国人や難民の問題、生活保護の権利の問題に関しては、我々弁護士のネットワークができています。当事者の方々が声を上げた歴史がある。

 最近だとLGBTの当事者や専門家のネットワークがあり、少なくとも昔に比べれば、メディアに出て「これが問題だ」と訴えることはできている。

 当事者の方が声を出して、それに呼応するように専門家のネットワークができる、という形で両者がうまくリンクし始めるといい。片方だけでは足りないと思います。

 この業界では、ぼやっとした曖昧な法律の下で、横のネットワークもぼやっとしたままになっている。特に支援者側のネットワークが弱い。業界の内情が見えない。よく分からない。関わると自分たちも変なことに巻き込まれるかもしれない、倫理的にマズいんじゃないのか、と躊躇している。私自身も、同業者の弁護士に「暴力団怖くないの?」と真顔で聞かれることがあります。

 結果的に、支援者が関わるとすれば「被害者の救済」という形にならざるをえない。そのあたりのいびつさが、ネットワークの弱さを作っているのではないでしょうか。

 

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「セックスワーク・サミット2018春「知ってスッキリ!『風俗と税金』入門講座」(主催:一般社団法人ホワイトハンズ)が、2018年3月18日(日)に、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されます。

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坂爪 真吾

さかつめ しんご

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。



新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店の待機部屋での無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『はじめての不倫学』(光文社新書)などがある。


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