「岡田有希子と“もうひとりのユッコ”の夭折、映画界の奇才による大映ドラマブームという置き土産」1986(昭和61)年【連載:死の百年史1921-2020】第8回(宝泉薫)
連載:死の百年史1921-2020 (作家・宝泉薫)
死のかたちから見えてくる人間と社会の実相。過去百年の日本と世界を、さまざまな命の終わり方を通して浮き彫りにする。第8回は1986(昭和61)年。ユッコシンドロームとその直前にもあったアイドルの自殺、ブームを遺して去った演出家について語る。
■1986(昭和61)年
岡田有希子(享年18)遠藤康子(享年17)増村保造(享年62)
1986(昭和61)年は、ユッコシンドロームの年だ。4月8日に歌手・岡田有希子が自殺したあと、青少年を中心にその影響と見られる自殺が相次ぎ、メディアがその現象をそう命名した。
それゆえ、彼女の死は禁忌(タブー)として扱われることに。翌月に予定されていた新曲の発売は中止となり、十数年にわたって、その歌も映像もテレビやラジオから流れなかった。死後35年が過ぎた今も、メディアで彼女を語ることはどこか憚られる空気が感じられる。
ただ、自殺はひとりで思いつけるものではない。ほとんどの場合、死にたい気持ちも死に方も、先に自殺した人たちからなんらかの影響を受けているものだ。
じつはこの年、彼女が亡くなるまでにも、青少年の自殺が目立っていた。彼女自身もそういう空気に影響された可能性がある。しかも、そのなかには彼女と同業の女性が遂げた自殺も含まれていたのだ。
その女性とは、前年のドラマ「スケバン刑事」(フジテレビ系)の敵役などで注目され、5月に歌手としてもデビューするはずだった遠藤康子だ。
遠藤は3月30日、都内墨田区の7階立てビルの屋上から飛び降り自殺した。その9日後、岡田がやはり都内新宿区の7階建てビルの屋上から飛び降り自殺。もっとも、ここでいう「影響」とはもっぱら、死に方より、死にたい気持ちのほうだ。岡田は中2のときにも実家でガス自殺未遂のような行動を見せていた。そういうタイプの人が、1歳下の、同じ「アイドル」と呼ばれる立場の少女の死に、心理的影響をまったく受けなかったとは考えにくい。死の直後に報じられたような、恋愛関係の悩みを抱えていたとしたらなおさらだ。
なお、遠藤には芸能界に「親友」がいた。前年にドラマ「毎度おさわがせします」(TBS系)でブレイクを果たし、歌手デビューもしてトップアイドルになっていた中山美穂だ。
エッセイ集「なぜならやさしいまちがあったから」(2009年)によれば、中山は4月1日に、コンサート先の名古屋へ移動中、マネージャーから親友の訃報を聞かされた。「数日前に話した時になにも死を感じてあげることができず、自分を責めました」という彼女は、翌日、テレビのニュースでもその訃報に接し「何時間も動けないまま」になりながら、こんなことを考えたという。
「曲がったことが大嫌いな性格で、当時の仕事の常識に大いに不満を持っていたのではないかと、私なりに想像しました。お付き合いしている男性と別れなさいと言われたのではないだろうか? と幼い頭でそう解釈したのです」
この説についてはメディアでも報じられたが、遠藤の母親や事務所関係者は否定。そのため、断定的な書き方を避けたのだろう。
中山はこの2年後、自ら作詞作曲した「Long Distance To The Heaven」で彼女を追悼した。エッセイ集「P.S. I LOVE YOU」(1991年)では、この作品に触れつつ、こんな思いを綴っている。
「今、私が歌ったり芝居していられるのは、彼女とのお別れがあったから。お別れした彼女のぶんまで、がんばってみせるという約束をしたから。彼女のぶんまで、素敵な女性になろうと思っているから」
実際、前出の「なぜならやさしいまちがあったから」には、彼女の分まで「誰にも止めることを許さない自由な恋愛をしようと思った。(略)誰にも止めることができない自由な魂で結婚をしました」とも書かれている。遠藤の死は、中山の生き方に公私両面で大きな影響を与えたのだ。
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