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悩みから開放されて安楽を得るには?哲学者「ピュロン」に学ぶ

天才の日常~ピュロン篇

■危ない目にあっても平然と受け入れたピュロン 

 実際、ピュロンはどんなことでも平然と受け入れる生き方をしていた。道を歩いている時に馬車が来てもそのままぶつかりそうになったり、崖の近くに来てそのまま落ちそうになるというようなことも多く、いつも危ない目に合うところを友人に助けてもらっていたようだ。

 師匠のアナクサルコスが沼に落ちたのを見ても、彼は助けようとせずにそのまま通り過ぎてしまったり、会話をしていて、途中で相手がいなくなってしまっても、そのまま一人で何事もなかったかのように話し続けていたとも言われている。

 嵐で荒れた海を航海する船で、他の者達が動揺する中、ピュロンだけは平静な様子を保っていた。そして、激しく揺れる船の中でも一心に餌を食べ続ける豚を指差し「賢者はこんなふうに心の乱されない状態に身を置かなければならない」と言い、一緒に旅していた人たちを感心させたこともあった。

 とはいえ、一度もその平静を乱したことがないわけでもないようだ。ある時、道を歩いていると突然犬が飛びかかってきた。ピュロンはとても驚き、狼狽してしまった。その様子を見て、日頃の彼の言説とは異なる態度を批判する者もいたが、彼は「人間であることを完全に脱却することは難しいよ。でも、まずは態度によって可能な限り事態に対処しなければならないし、それが難しいならせめて言葉によって対処しなければならない」と答えた。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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