対策を頑張る企業ほど、精神疾患の社員が多くなる皮肉
「あなたは“うつ”ではありません」産業医の警告7
みなさんは「メンタルヘルス対策」というワードにプラスのイメージをもっているかもしれません。
確かに「従業員の心の健康をサポートしよう」という姿勢は素晴らしいのですが、その実態はと言うと、とても褒められたものではない面もあります。
なぜなら、メンタルヘルス対策の重要性を説く国(行政)も、それに取り組む企業も、労働環境の改善等によって対処すべき問題を、メンタルヘルス対策という名目で、労働者個人のメンタルの問題にすり替えているからです。
一般的に、働き方の変革や労働環境の改善は、費用や労力の面からも敬遠されがちな課題です。
それに着手することに比べると、気分の落ち込んだ社員が出てくれば、労働環境を顧みることなく精神科に送り込む「メンタルヘルス対策」のほうがおそらく圧倒的に「楽」でしょう。
少々乱暴な表現ですが、この「精神科医への丸投げ」こそが日本のメンタルヘルス対策の実態だと言えます。
そして、さらに問題なのは、精神科医側もその「丸投げ」を自分達が受け入れられるかのように振る舞っている点です。すなわち、本来ならば労働環境を改善しなければ解消しないような気分の落ち込みをうつ病(やその他の精神疾患)だと診断し、あたかも薬で治せるかのように振る舞っているのです。
これまで見てきたように、精神科の診断書が労働の現場に混乱をもたらしているのはまぎれもない事実です。
しかし、一方で企業側も、精神科医が簡単にうつ病の診断書を出してくれるのをいいことに、気分の落ち込んだ社員を見つけては、積極的に精神科の受診を勧めている面があります。
そうすることで「使用者」としての監督責任を果たし、社員のメンタルヘルス対策にしっかりと取り組んでいる姿勢を示せるからです。
こうした背景を踏まえると、もはや今日のうつ病は、個人の病気である以上に、社会構造によって生み出されている「社会の病」だと言えるでしょう。
(取り上げる事例は、個人を特定されないよう、実際の話を一部変更しています。もちろん、話を大げさにするなどの脚色は一切していません。また、事例に登場する人名はすべて仮名です。本記事は「あなたは“うつ”ではありません」を再構成しています)。
<次回は 精神科医は、いいかげんな専門家? について紹介します>
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