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〝おでこを出した小さな勝負師〟伊藤美誠。万里の長城にヒビを入れた!

中国に破れたものの、確かな爪痕を残した。世界卓球レビュー

卓球の世界選手権団体戦。石川佳純、伊藤美誠、平野美宇を中心に戦った日本女子は、決勝で中国に敗れたものの、銀メダルに輝いた。コリアの合同チーム結成という、前代未聞のハプニングもあった今大会を振り返る。

■夢を見させてくれた伊藤美誠

 卓球の日本女子が団体戦で中国を破って優勝したことは、近年、2回ある。

 2016年の世界ジュニア選手権と、2014年のアジアジュニア選手権カデットの部だ。

 2016年世界ジュニア団体は、伊藤美誠が8戦全勝。中国に2勝0敗だった。

 2014年アジアジュニア・カデット団体は、伊藤美誠が11戦全勝。中国に3勝0敗だった(平野美宇と組んだダブルスの勝利を含む)。

 日本が中国を負かすときは必ずそこに、団体戦で無双の強さを発揮する〝おでこを出した小さな勝負師〟の活躍がある。

 だから今回も、中国との第1試合で伊藤美誠が劉詩文を破ったときに夢を見た。ついにこの日がやってきたかと、手汗を拭いて、また握った。結果的に万里の長城は崩れなかったが、各所にヒビ割れを入れて、修復が必要な程度には追い詰めたと言っていいだろう。

写真:千葉格/アフロ

 それにしても伊藤美誠の精神力はどうだ。ゲームカウント2-2で迎えた第5ゲーム。8-10で劉詩文にマッチポイントを握られた崖っぷちでも表情を変えず、冷静に自分のサーブから連取して10-10に追いつく。そこから今度は謎の微笑みを浮かべてレシーブ体勢に入り、あの緊迫した綱渡りを楽しんでいるようにも見えた。

 この試合、伊藤が取ったゲームは断然、自分のサーブからの得点が多かった。第1ゲームは11点中、8点。第4ゲームは11点中、9点が、サーブからの得点だ。しかし最終ゲームに入ってからはサーブから点が取れず、むしろ劉詩文のサーブを読んで狙い打つレシーブからの得点が多かった。

 それがこの土壇場に追い込まれた状況で、本来の得点パターンを取り戻す。2本連取の後、デュースからのラリーを制して11-10で逆マッチポイントをつかむと、最後は再びサーブからの3球目バックドライブがウイニングショット! 

 思えば準決勝のコリア戦でチョン・ジヒを負かした試合も、今年の全日本決勝で平野美宇を負かした試合も、最後のポイントは同じクロスへの必殺バックドライブだった。みまパンチよりも強力な武器が、今の伊藤にはある。

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田端 到

たばた いたる

1962年生まれ。週刊誌記者を経てフリーのライターに。競馬、野球を中心に著書多数。趣味は五輪競技アスリートのSNSを観察すること。卓球は17年アジア選手権と18年グランドファイナルを現地観戦。


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