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「個性なんて迷惑だ」と言った立川談志は筋が通っている

大事なことはすべて 立川談志に教わった第5回

■信頼関係の構築なしに「個性尊重」はあり得ない

 毒蝮三太夫さんが「ババア」と言えば個性ですが、駆け出しの芸人が「ババア」とでも言おうものならタレント生命の終焉となるように。そんな信頼関係の構築なしのいきなりの「個性尊重」はあり得ないと、師匠は異を唱えていたのでしょう。

「行動のみならず、言語も思考も合理的ショートカット」という師匠談志でしたが、きちんとした手続きを踏まない非合理的ショートカットでの「個性尊重」という今の世の中に疑問を持ち続けていたのです。

 そんな厳しい師匠でしたが、その代わり二つ目や真打ちに昇進すると、途端に前座に向かって「おい、兄弟子にそんなことさせるんじゃない!」と、手のひらを返すように大事にしてくれるような優しさを持っていました。つまり、「前座修業」という過酷な期間は、師匠と自分との間に「信頼関係」を築く大切な期間なのです。

 私の上には惣領(そうりょう)の文字助(もじすけ)師匠を筆頭に16名もの兄弟子がいます。どの方もみんなそれぞれ非常に個性的で魅力的であります。こんな個性的な集団が育ったのも、「前座時代は一切個性を認めない」という落語界きっての厳しさで名を馳(は) せた、泣く子も黙る「立川流の前座期間」があったからに違いないと、私は確信しています。

 それは、たとえて言うなら「内燃機関の構造」にも似ています。前座時代は個性という圧縮されたパワーを発するために必要なハードウェアなのかもしれません。

 痩せている人ほどダイエットをしたがります。頭のいい人ほど勉強しています。お金持ちほど借金してます。世の中、すべて逆説的なのです。

 会社をはじめとする組織に、いきなり前座のような身分制度などはもちろん似つかわしくはありませんし、ナンセンスですが、なにごとに対しても「一定の信頼関係醸成期間」を求める姿勢は、案外、実社会でも使えると思います。

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立川 談慶

たてかわ だんけい

昭和40(1965)年長野県上田市(旧丸子町)出身。1988年慶応義塾大学経済学部を卒業後、㈱ワコールに入社。セールスマンとしての傍ら、福岡吉本一期生として活動。平成3(1991)年4月立川談志門下へ入門。前座名立川ワコール。平成12(2000)年12月、二つ目昇進、談志より「談慶」と命名。平成17(2005)年4月、真打ち昇進。平成22(2009)年から二年間、佐久市総合文化施設コスモホール館長に就任。平成25(2013)年、「大事なことはすべて立川談志(ししょう)に教わった」(KKベストセラーズ)出版、以来、「落語力」「いつも同じお題なのになぜ落語家の話は面白いのか」「めんどうくさい人の接し方、かわし方」「落語家直伝うまい!授業のつくり方」「なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか」「人生を味わう古典落語の名文句」など「落語とビジネス」にちなんだ書籍の執筆。NHK総合「民謡魂」BS日テレ「鉄道唱歌の旅」テレ朝系「Qさま!」CX系「アウトデラックス」「テレビ寺子屋」などテレビ出演も多数。現在、東京新聞月一エッセイ「笑う門には福来る」絶賛好評連載中


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