本当に日本の精神医療は遅れていたのか?
「あなたは“うつ”ではありません」産業医の警告13
ようするに「あなたのその気分の落ち込みはうつ病かもしれません。うつ病ならば、治療が可能です。うつ病を早期発見して早期治療しましょう」というメッセージを世間に広めるために行われたキャンペーンです。
日本で展開された「うつは心の風邪」キャンペーンのアメリカ版……と言うよりもこちらが本家なので、そのルーツだと言えます。
しかし、うつ病を疑って精神科を受診したところで、人生の悩みのすべてが薬で治るわけではありません。「DART」キャンペーンはある意味、誇大広告だと言えます。
そんな誇大広告によってつくられた、人生の悩みまでも精神科で治そうとする考え方が本当に「進んでいる」といえるのでしょうか。
ましてやそれを「遅れている」日本に持ち込む必要が本当にあったのでしょうか。
「遅れている」とされた従来の日本の「人生の悩みと病気を区別して、本当の病気だけを治療する」という考え方のほうが、「医学」としてはるかに健全だと思われます。
海外の製薬会社が日本に欧米のうつ病を「輸出」したという話を詳しく紹介していくと、欧米と日本の比較文化論的な話題にまで及ぶので、このあたりで止めておきます。
もし興味をもたれた方がいれば、『クレイジー・ライク・アメリカ』(イーサン・ウォッターズ著・阿部宏美訳、紀伊國屋書店)という本に詳しく書かれているので、ぜひご一読ください。
誤解のないようにお断りしておくと、私は「海外の製薬会社の陰謀で日本のうつ病患者が増えた」や「海外の製薬会社が日本の社会を悪い方向に変えようとしている」などといった、いわゆる「陰謀論」を唱えるつもりはまったくありません。
資本主義社会の企業が利益を追求するのは当然のことです。
これまで述べてきた通り、GSK社をはじめとする海外の製薬会社が日本にSSRIを売り込んだ結果、日本のうつ病患者が急増したのはまぎれもない事実です。
しかし、別にそれは「陰謀」や「悪意」によるものではなく、むしろ「善意」に基づく利益追求だったという解釈が実態に近いと思われます。
(取り上げる事例は、個人を特定されないよう、実際の話を一部変更しています。もちろん、話を大げさにするなどの脚色は一切していません。また、事例に登場する人名はすべて仮名です。本記事は「あなたは“うつ”ではありません」を再構成しています)。
<次回は うつ病は「いいかげんな病気」 について紹介します>
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