「身体障碍者がJR東日本に『乗車拒否』されたのか」伊是名夏子さんブログ炎上騒ぎの真相【山本一郎】
【連載】山本一郎「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」
■問題提起をした伊是名夏子さんがネット上で激しい批判を受けたのはなぜか?
ここで、健常者は配慮などしなくても電車に乗れるじゃないか、段差を登れるじゃないか、そういう健常者と同じような生活を身障者は送れる権利があるのだ、という議論になります。しかしながら、海外においてもどこの国でもバリアフリーの実現は努力目標に過ぎず、ドイツでも北欧でも24時間または48時間前に身体障碍者など介護が必要な場合は利用を事前に通達しなければサービスが受けられないと線引きされています。日本だけが障碍者に厳しいというわけではなく、どこの国でもこういう「合理的配慮」という現実的な問題が提起されています。
先日、格安航空会社のバニラエアー社で同じく身体障碍を抱える人物がタラップを這って自力で航空機に搭乗させられたなどとして揉めた件も、今回の伊是名夏子さんの件と同様、「なぜ声をあげた障害者がバッシングを受けるのか」と話題になりました。この場合は、格安航空会社であるバニラエアー社が、タラップなど基本的な設備しか用意できない奄美空港で、万が一、職員が身障者や車両などを抱えるなどして仮に落としたら責任問題になるという大前提があったうえで、なお分かっていて身障者がバニラエアー社を使い、設備のない奄美大島に事前通達なくいこうとしたという点でバッシングを受けることになったわけです。
さらには、細い階段の上にあるイタリアンレストランへの入店を拒否されたと発表した、評論家の乙武洋匡さんの件も、どう考えてもバリアフリーにはなり得ない小さな階上のお店に障碍者対応を求めるのは如何なものかと批判が渦巻きました。障害を抱えた人も人間ですから、階段やタラップのような健常者しか使えない貧弱な施設に対する介助がなく、排除されたと思えば怒るのも当然と言えば当然です。
◆なぜ彼女は「JRに乗車拒否された」と訴えたのか 波紋ブログの真意、伊是名夏子さんに聞いた
然るに、このような問題提起をしたばっかりにネット上で激しい批判を受けるにいたった伊是名夏子さんにとっては気の毒な面はあるとはいえ、一方で、性格の悪いクレーマー扱いされても仕方がない実情も垣間見えます。過去には、伊是名夏子さんが執筆したブログ記事でテーマパークに子供料金で入場したかのような記載があったり、コーヒーショップに入店しておきながら持ち込んだ飲料を飲んだようであったり、伊是名夏子さんのコラムの毒舌が尋常じゃなさ過ぎて打線まで組まれてしまう流れになっています。
伊是名夏子さんへの過剰なバッシングは良くない一方、乙武洋匡さんを含め身体障碍者マターの社会問題においては、常に「身体障碍者はつつましやかで、心の清らかな人物であるべき」というある種のバイアスが掛かっているのも事実ではないかと思うのです。実際には健常者と同様、いろんな性格の人たちが先天的、後天的な理由で身体や脳内に欠損を抱え、健常者ほど自由な生活を送ることができない不便を味わっていますが、どんな性格の、いかなる障害を抱えた人であれ、本人や親族らが求める生活や移動はなるだけさせてあげたい、というのがオープンな社会の発想であろうと思います。
他方、伊是名夏子さんが左派政党である社民党の幹事に最近就任された話もありました。よく考えれば、今回問題になった無人駅も、乗降客は2,000人程度と少ないながらもエレベーターの接地がすでに決まっています。J-CASTのインタビューでは伊是名夏子さんは否定しておられましたが、ここで「JRが乗車拒否」というネタで騒いだ結果、エレベーターが設置されることになったと喧伝される怖れもないではなかったという疑いも覚えます。