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「身体障碍者がJR東日本に『乗車拒否』されたのか」伊是名夏子さんブログ炎上騒ぎの真相【山本一郎】

【連載】山本一郎「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」

 

■人口減少社会の日本が抱える「バリアフリー問題」のジレンマ

 

 さらには、生活保護など社会政策に詳しい評論家のみわよしこさんが、ダイヤモンドオンラインで伊是名夏子さんを擁護する記事を書いていますが、ここでうっかり乗車拒否の理由を変な形で書いてしまったため、あたかも伊是名夏子さんがJRの乗車拒否をでっち上げたのではないかと鉄道クラスタが総立ちになる展開となりました。ここまでくると、党派性の強い人たちが事件を焚き付ける形で社会運動を行い、議論喚起するという手法は、ネット上の有識者によって検証されて簡単に信憑性が突き崩されてしまって逆に叩かれが発生するという事例にもなり得ます。

 

みわよしこ(ダイヤモンドオンライン)「伊是名氏は小田原駅から来宮駅までの直通電車を希望したが拒否された」→直通運転の電車は小田原16:29発→来宮16:56着までなし(来宮神社は17時まで)

 

 そして、法的に言えば今回の伊是名夏子さんとJR東日本の件も、先日のバニラエアー社と奄美空港の件も、事業者は「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)ということで、いわゆる『努力義務』になっています。当たり前のことですが、無原則に障碍者が健常者と同じ往来を求めて事業者に負担を求めても現実的には無理なのは間違いありませんので、そこは線引きをきちんとしています。ここでも障碍者の生活に関しては健常者や事業者がきちんと『合理的配慮』せよという扱いになっていますが、障碍者の方が暮らしやすい社会にするとしても、そのコストをどう負担するかは公平性の文脈だけでなく合理性の問題になるのでしょう。他にもバリアフリー法がありますが、これは乗降客数が基準に満たない本件では適用外で、バニラエアー社の件も奄美空港の設備をバリアフリー化しなければならない義務は負いません。

 したがって、伊是名夏子さんが如何に怒ろうとも、社民党や左派マスコミが後押ししようとも、仮に法的な手段に訴え出たいと考えたところで「合理的配慮の枠内において、JR東日本の対応は適法」という判断が下る可能性が高く、また、うっかり訴えて不当判決のビローンを出して高裁の判断が出てしまったら、今回のような個別対応の尺度についての明確な線引きができてしまう恐れがあります。判例で「JRの勝ち」にされてしまっては運動が逆効果になってしまうので、いくら怒っても法的に訴え出ることはできないのでしょう。

 一連の問題は、障碍者やその支援者の「お気持ち」にどこまで公共交通機関が理想高くそれに応じるかというところに尽きる一方、おそらく人口が減少していく日本においては、これらのインフラをバリアフリーな状態にどんどん改善していく余力がなくなっていくことになるかもしれません。人口が減少すれば、観光地に向かう電車など公共交通機関は沿線の住民の皆さんの利便性や障碍者の生活などお構いなしに廃線になるかもしれませんし、エレベーターの更新費用が賄えない地域は運用を止めてしまうでしょう。

 車椅子はもちろん、ベビーカーや杖をついての移動がむつかしくなるような貧しい社会にはしたくない一方、節度あるボリュームで適切に声を上げ、社会的に「ああ、それは不便だし可哀想だね。ちゃんと社会は対応するべき」というコンセンサスを得られるような現代風の運動の在り方を考えて欲しいと切に願います。

 別にオチを作りたくてご紹介するわけじゃないんですが、その伊是名夏子さんが理事を務める社民党神奈川支部の入り口がバリアフリーじゃないじゃんという画像が出回っていたので、最後に供養する形で回覧したいと思います。

 こちらからは以上です。

 

文:山本一郎

 

 

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山本 一郎

やまもと いちろう

著作家、ブロガー、投資家、経営者

1973年東京都生まれ。著作家、ブロガー、投資家、経営者。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。著書に『情報革命バブルの崩壊』『俺様国家中国の大経済』『ネットビジネスの終わり』ほか。   ブログ「やまもといちろうオフィシャルブログhttps://lineblog.me/yamamotoichiro/  

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