両親の離婚を経験。娘が50代になってやっと気づけたこと。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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両親の離婚を経験。娘が50代になってやっと気づけたこと。

悲しみを超えるたった一つの覚悟

作家・井上ひさし氏と評論家・西舘好子さんの娘である井上麻矢さんが結婚・離婚・再婚を経験した母にいま想うこと。ふたりの共著『女にとって夫とはなんだろうか』から紹介する。

■悲しみを手放すこと

 悲しみを手放すこと……。

 それが歳を重ねる秘訣だと知ったのは両親のおかげかもしれない。 

 人生は幸せになることを求めることではなく、生きていることの連続の中で起こる小さな幸せを積みかさねていくこと。

 いつになったら楽になるのだろうかと問い続けて進むことがいつしか自分の力になっていることを誰しもが痛感する。私は何度か結婚をしたが、「二度と結婚したくない」と思ったことがない。本当に心から愛しいと思える人を見つけられることがすでにもう奇跡なのだからその気持ちの延長線に結婚もあり、離婚もあるのではないだろうか。もちろん失敗だなどと思ったこともない。別れた時は憎しみ合い、その気持ちが収まったわけではないが、与えられたことの方がはるかに多いことに気がつく。

 傷つきやすい少女時代に親の離婚を通して感じた孤独も娘としての不甲斐ない気持ちも、振り返ってみると妙に懐かしい。あの時必死に前に進めたことを今感謝している。

 私を産んでくれた両親、育ててくれた祖父母、何世代から続く私をこの世界に送り出してくださった宇宙の営みにも、奥底から湧き出てくる畏敬の心があり、支えてくれた友だちや人生の先輩たちにも導かれた。

 この先このままではだめだと思うこともあるだろうが、それでも人は一歩でも前に進む力を備えているはずだ。

 この数年、父と母がつくった劇団を通して、離れていく人、力を貸してくれる人、そしていつの間にか手のひらを返したように態度が変わった人を見て生きてきた。意外な人が手を貸してくれ、理解してほしい人に理解されずに大変な目にあった。それはいまだに続いている。

 時に心が折れそうになりながらもなんとか進んでいる。

 この複雑怪奇、魑魅魍魎とした仕事を一〇年は続けていくこと、誰に何を言われても淡々と続けていくことは父との約束である。一〇年先のことはいかにその一〇年を過ごすかによって答えが変わるはずである。今はその八年目……その答えはもうすぐ出るはずだろう。 

 

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井上 麻矢

いのうえ まや

1967年、東京・柳橋生まれ。株式会社「こまつ座」代表取締役社長。千葉県市川市で育ち、御茶ノ水の文化学院高等部英語科に入学。在学中に渡仏。パリで語学学校と陶器の絵付け学校に通う。帰国後、スポーツニッポン新聞東京本社勤務。次女の出産を機に退職し、様々な職を経験する。2009年7月よりこまつ座支配人、同年11月より代表取締役社長に就任。12 年、第三十七回菊田一夫演劇賞特別賞(こまつ座)、第四十七回紀伊國屋演劇賞団体賞(こまつ座)、イタリアのフランコ・エンリケツ賞(こまつ座)受賞。14年、市川市民芸術文化奨励賞受賞。15年、父の井上ひさしから語られた珠玉の言葉77をまとめた『夜中の電話──父・井上ひさし最後の言葉』(集英社インターナショナル)、自身が企画した松竹映画の小説版『小説 母と暮せば』(山田洋次監督と共著、集英社)を連続刊行。17年、こまつ座が「きらめく星座」の成果により第七十二回文化庁芸術祭演劇部門大賞受賞(こまつ座)。西舘好子の娘。


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