「正義に御用心!」正義もまた胡散臭いものと思えるのは教養【藤森かよこ】
正義のために事実は黙殺されがち。正義の行使の動機が善とは限らない。
反出生主義者を日本で公言した最初の言論人ということで朝日新聞紙上のコメントで話題の著述家・藤森かよこ氏。『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください』(KKベストセラーズ、2020)もAmazon(フェミニズム部門)売れ筋ランキングで第1位に。三作目の最新エッセイ集『優しいあなたが不幸になりやすいのは世界が悪いからではなく自業自得なのだよ』(大和出版)が注目されている。いま、「正義」という名のもとに、正義の行使としてなにか胡散(うさん)臭いことがまかり通っていないか? 知らず知らずのうちに私たちは思考停止に陥っていないか? 藤森氏がいま警鐘を鳴らす大事な話。
■正義のために異常なことが起きつつある
2021年4月6日に経団連は政府に「ワクチンパスポート」の早期導入を要望した。経団連自身が、ワクチンパスポートの実現に向けて専門部会を設置し、課題を議論し、報告書をまとめるそうだ。
◆接種証明「ワクチンパスポート」導入で働きかけへ 経団連 | 新型コロナ ワクチン(日本国内) | NHKニュース
経団連の立場になってみれば無理もない。ワクチンパスポートがなければ、海外の顧客や関連企業と商談しようにも出入国に制限がかかる。駐在員の派遣や帰国もままならない。経団連は、世界経済フォーラム(ダボス会議)などから、「コモンズ・プロジェクト」に参加するように指令(圧力?)も受けているに違いない。
「コモンズ・プロジェクト」とは、アメリカの靴メーカーのCommon Projectsのことではない。The Common Project(TCP)のことだ。ロックフェラー財団The Rockefeller Foundationの支援を受けて設立された非営利組織のことだ。スイスに本部を置き、世界経済フォーラムと連携し地球規模の課題を解決することを目的としている。The Commons Project | World Economic Forum (weforum.org)
現在は新型コロナウイルスの流行を受け、国境往来時に検査結果やワクチン接種履歴を示す世界共通のデジタル証明書「コモンパス」(Common Pass)を発行する取り組みを推進している。日本では、2020年7月に国際文化会館内に事務局が設置された。コモンズ・プロジェクト | IHJ Programs (i-house.or.jp)
このワクチンパスポート、つまり「コモンパス」が、海外渡航時のウイルス拡大防止水際作戦だけにではなく、国内での公共交通機関や公共施設利用時にまで提示を求められるようになったら、窮屈な世の中になるなあと私は心配になる。今でも、公共の施設やデパートに入るときは、検温とアルコールによる手指消毒が必須で、面倒くさいのに。
なんと、4月29日の日本経済新聞の朝刊の第一面には「ワクチン、治験を待たず許可 来年にも緊急使用へ法改正」という見出しが躍っていた。記事の語調は、「それはあかんやろ!」ではなく、「しかたないよね」であった。
治験も済ませていないワクチンが許可され摂取されるなんて、どう考えても非常識で異常なことが、パンデミックを防ぎ生命と健康を守るという「正義」のために実行される。
この「正義」がクセモノだ。なぜならば、正義の行使がいい結果をもたらすとは限らないし、正義のために事実は黙殺されがちだし、正義の行使の動機が善とは限らないから。
正直言うと、私は、宗教じゃあるまいし、正義を神聖不可侵で無謬(むびゅう)なものとする幼稚な思考停止傾向が、主流メディアや、それらに影響を受ける世間一般にあるのが嫌な感じである。