人を説得することは可能なのか?【中野剛志×適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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人を説得することは可能なのか?【中野剛志×適菜収】

中野剛志×適菜収 〈続〉特別対談第2回

 

適菜:まともな感染症の専門家はみんな新型コロナが変異したのだから、対応や判断を変えるしかないと言いました。当たり前ですよね。だからあそこまで極端な形でぶっ壊れたのは藤井聡と、その周辺だけだと思います。もう「自粛」の効果を否定することだけにやっきになっていて、自分でもなにをやっているのかわからなくなっているのではないですか。

 

中野:確かにそうですね。藤井氏は去年の六月のある討論番組で「僕が間違っていたら、筆を折って人前に出ないようにしますよ」などと口走っていました。あの時点で、世界中の感染症や公衆衛生の専門家が苦戦している未知のウイルスについて、専門外なのに、そう断言してしまった。信じ難い傲慢さです。でも、そんな大見えを切ってしまったもんだから、その後、修正できなくなっている。これはもう救いようがないなと。

 

適菜:先ほども言いましたが気持ち悪いのが善人面することです。

 

中野:善人面しますね。怒って叫んでみせたり、ため息ついて悲しんでみせたりの三文芝居。

 

適菜:自分たちは正義の味方であって、自殺者に対して同情しているんだ。夜の町の人たちがかわいそうだ。ライブハウスの経営者がかわいそうだ。自粛が必要という人間は思いやりのない人間だ。だからわれわれは理性に基づき「真実を教えて差し上げる」と。その一方で弱者切り捨ての新自由主義者や陰謀論者とつるむ。私のFacebookの知り合いでも、ああいうのに騙されたのは多い。あれはすごく悪質です。

 

中野:善人面しているうちに、本気で「俺は正義の味方だ」と自己陶酔に陥ったようにも見える。善人ぶった言葉を発すると、その言葉に自分が酔ってしまう。この自己陶酔という現象も、言葉のせいですね。そもそも、フィクションというものは、言葉があるから可能になるわけです。そして、言葉が作ったフィクション、あるいはバーチャル・リアリティで、自分を騙すこともできてしまう。

 例えば、第四波の緊急事態宣言の前後、大阪や東京で感染者数が増え続ける中で、藤井氏は、感染者数の「増加率」が減ったのを勝手に「収束」という言葉で定義して、「収束に向かっているから緊急事態宣言は必要なかった」とtwitterで主張していました。

 

◆https://mobile.twitter.com/tera_sawa/status/1384077073887555594

 

◆https://twitter.com/SF_SatoshiFujii/status/1390462624576335873

 

 しかし、言うのも馬鹿々々しいですが、増加率が減少しようが100%以下にならない限り、感染者数は増加しているわけですから、普通はそれを「収束」に向かっているとは言わない。特に大阪は医療崩壊しかかっていたんですから、少なくとも、対策を強化する必要がないなどという結論になるはずがない。実際、それをたくさんの人にtwitterで指摘され、批判され、嘲笑すらされていました。

 

適菜:反論できないので、よくわからない説明を始め、墓穴を掘った。間違いを認めるとプライドが傷つくので完全に開き直ったのでしょう。

 

中野:しかし、下手すると、あれは意図的にデマを流しているのではなく、本気で「収束しているから、緊急事態宣言はいらない」と思い込んでいるのかもしれないですよ。つまり、「収束」という言葉で自分を騙し切ってしまった。あそこまでいくと、そう思わざるを得ない。そう考えると、言葉って、つくづく恐ろしいと思いますね。言葉によるバーチャル・リアリティの最たるものが陰謀論ですね。

 

適菜:藤井聡は、武田邦彦や内海聡といった陰謀論者とつるみはじめたり、宮沢孝幸や三浦瑠麗に飛びついたり。ある人が「完全にダークサイトに落ちてしまった」と言っていましたが。

 

中野:まさに、言葉を操る知識人が最も警戒すべきダークサイドです。そういえば、藤井氏は出演したラジオの中で、自分の言うことがちっとも受け入れられないというので、いきなり善人面をかなぐり捨てて「大嫌い、日本人」って悪態ついてました

適菜:橋下徹と同じです。橋下は発言を批判されたら「日本国民と握手できるか分からない」と言い出した。橋下は「日本的」という言葉をマイナスの意味で使います。自分の主張がなぜ受け入れられないかを自省せずに「大嫌い、日本人」と叫ぶのなら、日本のことには口を出さずに、自分の本業のほうで精進してほしいものです。

 

中野:緊急事態宣言は不要と唱える藤井氏や宮沢孝幸氏は「目、口、鼻さえ触らなければ大丈夫」って言っていましたが、人間は日常生活の中で無意識に目、鼻、口を触るわけですから、絶対触るなと言われてもできません。そんな無理筋の提案をしておきながら、それが受け入れられないからって「大嫌い」って言われてもね。

 

適菜:宮沢は昨年6月12日に大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議にオブザーバーとして参加し、「空気中にウイルスは飛ぶが感染しないレベル」と発言。府知事の吉村洋文は会議終了後「コロナが空気感染しないという意見があり、そうであればソーシャルディスタンスのガイドラインが正しいのか早急に見直したい」と応じました。しかし、先日、宮沢は空気感染すると世間が混乱するから、空気感染はしないと言っていたと、嘘をついていたことを自白しました。これは飼い猫が書いているという体裁にして宮沢が「note」(5月3日)に載せた記事で<本記事は無断転載、引用禁止>とあるので、趣旨を要約します。

<新型コロナウイルスは空気感染するが、確率は低い。空気感染すると言うと世間が混乱するので、一般的にはしないと説明していた。番組によっては「しない」と言い切った。それには理由がある。そう言わないと、みんな電車に乗れなくなる。テレビでは細かい説明ができない。テレビでは端的に言い切らないといけない。科学的にしゃべるには限界がある>(※https://mobile.twitter.com/miakiza20100906/status/1389599847930421254)

 「科学的説明を尽くしても限界がある」ということと、「テレビの事情があるから科学的事実を捻じ曲げた」というのはまったく別の話です。こんなのが許されていいわけがない。宮沢の発言を真に受けて新型コロナに感染した人がいたら、一体どのような責任をとるつもりなのか? それで、つい最近ネットで見て面白かったのが、宮沢が目をこすってる写真。

 

中野:今の世の中、どこからかそういう写真を見付けてくる人がいるんですよね(笑)。

 

(続く)

 

著者紹介

中野剛志(なかのたけし)

評論家。1971年、神奈川県生まれ。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“TheorisingEconomicNationalism”(NationsandNationalism)NationsandNationalismPrizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『日本経済学新論』(ちくま新書)、新刊に『小林秀雄の政治哲学』(文春新書)が絶賛発売中。『目からウロコが落ちる奇跡の経済学教室【基礎知識編】』と『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)が日本一わかりやすいMMTの最良教科書としてベストセラーに。

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム近代的人間観の超克』(文春新書)、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』、『国賊論 安倍晋三と仲間たち』『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、最新刊『コロナと無責任な人たち』(祥伝社新書)など著書40冊以上。「適菜収のメールマガジン」も配信中。https://foomii.com/00171

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「新型コロナは風邪」「外出自粛や行動制限は無意味だ」
「新型コロナは夏には収束する」などと
無責任な言論を垂れ流し続ける似非知識人よ!
感染拡大を恐れて警鐘を鳴らす本物の専門家たちを罵倒し、
不安な国民を惑わした言論人を「実名」で糾弾する!

危機の時にデマゴーグたちに煽動されないよう、
ウイルスに抗する免疫力をもつように、
確かな思想と強い精神力をもつ必要があるのです。
思想の免疫力を高めるためのワクチンとは、
具体的には、良質の思想に馴染んでおくこと、
それに尽きます。――――――中野剛志

専門的な医学知識もないのに、
「コロナ脳」「自粛厨」などと
不安な国民をバカにしてるのは誰なのか?
新型コロナに関してデマ・楽観論を
流してきた「悪質な言論人」の
責任を追及する!―――――――適菜収

 

●目次

はじめに———デマゴーグに対する免疫力 中野剛志

第一章
人間は未知の事態に
いかに対峙すべきか

第二章
成功体験のある人間ほど
失敗するのはなぜか

第三章
新型コロナで正体がバレた
似非知識人

第四章
思想と哲学の背後に流れる水脈

第五章
コロナ禍は
「歴史を学ぶ」チャンスである

第六章
人間の陥りやすい罠

第七章
「保守」はいつから堕落したのか

第八章
人間はなぜ自発的に
縛られようとするのか

第九章
人間の本質は「ものまね」である

おわりに———なにかを予知するということ 適菜 収

 

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なかの たけし/てきな おさむ

中野剛志(なかのたけし)

評論家。1971年、神奈川県生まれ。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“TheorisingEconomicNationalism”(NationsandNationalism)NationsandNationalismPrizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『日本経済学新論』(ちくま新書)、新刊に『小林秀雄の政治哲学』(文春新書)が絶賛発売中。『目からウロコが落ちる奇跡の経済学教室【基礎知識編】』と『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)が日本一わかりやすいMMTの最良教科書としてベストセラーに。

 

 

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム近代的人間観の超克』(文春新書)、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』、『国賊論 安倍晋三と仲間たち』『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、最新刊『コロナと無責任な人たち』(祥伝社新書)など著書40冊以上。「適菜収のメールマガジン」も配信中。https://foomii.com/00171

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