平成生まれのゆとり作家が夏目漱石に勝つ方法
読者と接点を持つ。コミュニティーをつくる。『拝啓、本が売れません』特別編③
■作者が自分で集客をすることは必須
「でも加藤さん、現在進行形で『本が売れない。何とかしなきゃ!』と思っている人がnoteやcakesで作品を発信しようにも、皆さんこう考えると思うんですよ。『まだ知名度のない自分に、果たして読者がつくんだろうか?』って。それで及び腰になっちゃってる作家さん、たくさんいると思うんですよね」
出版社を介さず作品を発表するということは、逆に、普段は出版社が担当していたプロモーションや営業活動を、すべて自分の手で行わなければならないということだ。
「もちろん、最初は大変だと思います。額賀さんも、Twitterを始めた当初はフォロワーは一桁でしたよね? けれど、地道に続けてきたから、今のフォロワー数になった。それに、どんなに知名度のない人だって、面白いものが書ければ知名度は突然跳ね上がるんです」
加藤さんはここで、メールマガジンの開封率について話してくれた。
「一般に、メルマガの開封率は、一桁パーセントとかそれ以下が普通です。でも、きちんとターゲッティングすれば、50パーセントにまで開封率は上げることができます」
ターゲッティングについては、『拝啓~』の中でも取材をした。Webコンサルタントの大廣さんから、Web広告の強みとして説明してくれた。
「たとえばですが、『noteで課金をしたことがあって、ビジネスに興味がある、関東在住の20代から40代のビジネスマン』なんて細かいターゲッティングだってすることが可能です。きちんとターゲッティングして作品のPRをすれば、新人だって作品を読んでもらえる。もちろん、作品自体が面白いことが重要になりますが」
何よりもまずは、面白いものを書く。それは私が『拝啓~』を書く中で辿り着いた一つの結論だった。面白ければ必ず売れるわけじゃない。でも、面白くなければ絶対に売れない。
「日本で雑誌というメディアが誕生したとき、多くの作家が『ここに掲載すれば読んでもらえる』『お金になる』と思って作品をガンガン書いて載せました。だから雑誌にも本にも、そこに載っている作品にも、多様性があったんです。でも今は余裕がなくなって、『売れるものしか出版できない』という考えになってきました。けれどそれでは多様性がなくなってしまう。読者が飽きて、本というメディアから離れていく原因になります」
「何かが当たって、それに追随したり真似したもので世の中があふれ返っていくことに、絶対に飽きてますよ」。取材にやってきた私とワタナベ氏にそう言ったのは、デザイナーの川谷康久さんだった。編集者とデザイナー、仕事の内容は違っても、加藤さんも川谷さんも同じことを懸念している。
「作者が自分でお客さんを集める。それはもう、やらなきゃいけないことです。ウェブ上に自分のファンが集まるコミュニティを作って、そこから本を作っていく。ウェブ上なら、『これは売れるかどうか』なんて関係ない。だめならすぐにやめられるし、とにかくやってみればいいんです」
ウェブ上でやってみて、読者の反応が悪いなら本にしなければいい。反響が大きいなら、そのデータと熱量を元に自信を持って本にすればいい。
加藤さんはそう語りながら、たくさんの実例を私達に見せてくれた。私の大学の先輩であるよしもとばななさんも、note上でエッセイの連載をし、それを本としてまとめて刊行していた。有料コンテンツにもかかわらず、たくさんのファンがよしもとさんのコミュニティに集まっていたのだ。