大ベストセラー『君たちはどう生きるか』を読むと不幸になる!
大多数の人にコペルニクスは参考にならない
■自由の幻想が、どんどん崩れている
中田 それが重要なんです。持てるものだと、またそれに縛られてしまう。持っているものが、エラくなってしまうので。配ってなくなるのが重要なんです。まあ、糖分が多くてあまり身体に良くなさそうだとかいうことはありますが、とりあえずもらって嬉しいし、美味しい。それをツイッターとかインスタで拡散して、まわしていくというのが、まさに現代なわけですね。これこそが21世紀の革命運動なんですよ。「たい焼き革命」といずれ呼ばれることになる。漫画化して、映画化しましょう(笑)。
ーーはあ。多数派の価値観に真っ向から、たい焼きをぶつけるというのは、たしかに斬新ですが。
中田 実際、いま世界はそういう流れになってきているんです。これまでは第三世界が先進国の思想やノウハウを取り入れてキャッチアップしていこうとしてきて、先進国もそれを支援してきました。でも、じつは独裁のほうが効率がいいことを先進国側もわかってきた。ただし、そこでは自由も失われていくんです。トランプもそうですね。いままで独裁はダメだと言ってきた先進国のほうが、独裁になってきている。
そこに拍車をかけたのがイスラームなんです。9・11のとき、ブッシュは「ビン・ラディンは、我々の自由を憎んでいる」と言いました。でも、それはまちがっています。前にも言いましたが、ビン・ラディンが憎んでいたのは自由そのものではなく、自由という名の偽善や欺瞞でした。
それからというもの、いままで欧米が守ってきた自由の幻想が、どんどん崩れている。治安維持の名目で、どんどん自由が奪われて、均一的な社会に向かっています。結局、自由なんてないほうが秩序が守れるとわかったんですね。そのことにオールド・リベラルは反対しているんだけれど、ちっとも説得力がない。なぜなら彼らだって、心の底から自由や平等を求めているわけではないからです。移民問題にしても日本のリベラルは「受け入れろ」と言っていますが、1000万人入ってきてもいいとは思っていない。アラブやアフリカから100万人単位で人が来たら、どうなるか想像がつきますからね。結局、人間は自由であるべきだというのは噓なんです。そういうことが、わかりかけてきているのが現代なんです。
自由という幻想は、たしかに耳には心地良いんですけれど、あくまで秩序があるところで成り立つ話なんです。授業中は遊びまわらないことで学校は成り立っている。上司が「とりあえず5時までは会社にいろ」と言ったら部下は5時までいることで会社が成り立っている。もちろん、それでも100パーセント従うのは、おかしいんじゃないかという議論はありなんですが、基本的には、周りに合わせてふるまうことで秩序が成り立っている。それがわかっていないと始まらないんです。
ーー人間は社会の中で生きているのだから、社会や共同体のルールに従いましょうという、ひじょうに真っ当というか、当たり前の議論ですよね。
中田 そうです。それで初めて人は人間になるんですね。逆に言うと、オオカミの間にいたら、やはりオオカミのマネをするのがいいんです。そこで、人間のマネをして二本足で歩いたりすると「おまえ、なんだ」とか言われて噛みつかれるかもしれません。オオカミの間で正しい生き方とは、オオカミのように四つ足で歩いて、ウォーっと吠えることなんです。
もちろん、そこで「オレはオオカミじゃなくて人間だ」と思うのは正しいんです。でも、それを言ってしまったら、オオカミの間で暮らしていけない。生きるためにはオオカミのマネをしたほうがいいわけです。『君たちはどう生きるか』は、オオカミの間にいるのに「オレは人間だから二本足で歩く」と主張しているようなものです。
〈『みんなちがって、みんなダメ』より構成〉
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