「池江璃花子」叩きで思い出す五輪アイドルたち、世間はなぜ悲劇のヒロインを求めるのか【宝泉薫】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「池江璃花子」叩きで思い出す五輪アイドルたち、世間はなぜ悲劇のヒロインを求めるのか【宝泉薫】

池江璃花子選手

 

■池江璃花子選手をバッシングする心理とは

 

 東京五輪開催の賛否をめぐる騒動の渦に、競泳の池江璃花子が呑み込まれた。開催反対派が彼女に対して出場辞退を求める動きが活発化。池江本人がツイッターで、こんな見解を述べる事態に発展してしまった。

「持病を持ってる私も、開催され無くても今、目の前にある重症化リスクに日々不安な生活も送っています。私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいてる方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」

 白血病と闘いながら、ようやく寛解して代表の座をつかみとったハタチの乙女から、その夢を奪い取るような要求をよくできるものだと思うが、この動きはその後もくすぶっていて「池江選手に五輪辞退をお願いするのは酷くない」(ニューズウィーク日本版)というネット記事が配信されたりしている。そこには「アスリートと一般市民の利害は今や根本的に対立している。そうさせたのは、コロナ無策のまま五輪を強行しようとする政権の姿勢だ」というサブタイトルが付されていた。たとえ政権批判にかこつけていたとしても、池江を攻撃していることに変わりはないだろう。

 この現象にはおそらく、世の中全体の欲求不満が関係している。その「欲求」とは、五輪をいつものように消費したい、選手を称賛したり、叩いたりしたいというものだ。

 中国・武漢に発するコロナ禍がなければ、東京五輪は去年の夏に行われていた。その結果について称賛したり叩いたり、あるいはその後の選手たちの迷走ぶりを笑ったりということができていたはずだが、あいにくそれが叶っていない。

 そんななか、別のかたちで結果を出したのが池江だ。白血病という難敵に勝ち、一年延期という幸運も重なって、絶望視されていた代表の座を得た。おかげでいち早く、称賛されるべきヒロインとなったが、それが不快な人もいる。五輪反対派は開催賛成派のシンボルのような彼女を叩くことで、勢いを拡大しようとしたのだろう。仮にもし、本当に出場辞退をして涙の会見など開けば、それは歴史的名場面となる。若くて可愛い女子選手は、悲劇のヒロインにうってつけだからだ。

 五輪においては長年、さまざまな悲劇が繰り返されてきた。特に夏季の水泳や体操、マラソンといった個人的競技からは多くのヒロインが生まれたが、そのなかには悲劇どころか、闇落ちしてしまった人もいる。その歴史をちょっと振り返ってみよう。

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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