「部下とは一定の距離感をとる」管理職の大カンチガイ
なぜ、職場改革をしても、社員は辞めていくのか?(中編)
■厳密な時間管理で「やる気」を失う職場
「従業員が少しでも早く帰宅し、プライベートの時間を充実させれば、職場も元気を取り戻すかもしれない」と考えて、「残業禁止」を打ち出すのは悪いアイデアではありません。
しかし、そのために従業員に厳密な時間管理を強いるとしたら、まったくの逆効果です。
こうした経営者の多くは、職場に活気を取り戻したいと願いながら、「管理」する時点ですでに従業員のやる気や元気を奪っていることに気づいていません。人は管理されると「やらされ感」を覚え、途端にやる気を失ってしまうのです。
反対に、責任と裁量を任されたうえで、目指すゴールに向かって自由にやっていいと言われると、向上心のある人ほど非常にやる気を出します。
この国では、単に長時間労働が問題視され、その中身はあまり議論されていませんが、本当の問題は「やらされ感」を抱く時間の長さなのです。人は自分がやりたいと思うことに没頭している時間は、それほど苦痛ではありません。あなたも好きな趣味に夢中になって、気づくと徹夜していたという経験があるのではないでしょうか。
一方で、人から無理やりつき合わされた関心のないイベントでは、10分が1時間にも長く感じたという経験もありませんでしたか。仕事の目的や背景もちゃんと伝えられず、何のためかわからない作業に時間を費やす一方で、業務の見直し指示もあいまいなまま、早く帰ることだけが強制される。こんな状況でやる気が高まるわけはないのです。
モチベーションや動機づけに関する研究の第一人者である同志社大学の太田肇教授は、「人のやる気を高めるには、管理しないことである」とおっしゃっています。太田教授の著書『公務員革命―彼らの〈やる気〉が地域社会を変える』(ちくま新書)でも指摘されているように、働く一人ひとりは優秀でも、管理されるのが当たり前だと感じてしまえば、責任感も使命感も持たず組織にぶら下がることが容易にできてしまいます。
すると、「言われたことだけやっていればいい」という感覚が蔓延し、「言われないことをやって失敗すると自分が損するだけ。自分から進んでやりたくない」と言う人が増えていきます。行き過ぎた管理が、このような組織を生み出してしまうのです。
この管理主義が、バブル崩壊以降の日本には蔓延しており、ともすれば過剰管理とでもいうべき状況に陥っている企業も少なくありません。従業員のコミュニケーション不全を課題視する企業のなかには、IT技術を駆使して、職場で誰と誰がどの程度話しているかを計測しようとするところもあります。人間はモルモットではありません。日々の何気ない一挙一動までシステムに管理されているなかで、誰が伸び伸びと働けるのでしょうか。
やはり、企業は管理主義から脱却しなければなりません。ただでさえ、仕事というものは、給料などお金をもらう手前、少々嫌なことでも取り組まなければならない、という強制力が働きます。つまり仕事は「やらされ感」を抱きやすいものなのです。しかも現代は、高度成長期とは違い、若者が少なくベテランが多いため、早いうちから仕事を任せられる状況にはないのです。だからこそ、経営者や管理職には、従業員の主体性発揮に向け、管理を止め、信じて任せることに最大限の努力をする必要が高まっているのです。
松下幸之助氏は『事業は人なり』(PHPビジネス新書)で、こう述べています。
「結局大事なことは、目標を与えることである。目標が与えられれば、あとはあれこれ口やかましく言わなくても、たいていの人は自由に創意工夫を発揮してやってくれる」
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