花粉症の原因として嫌われている「杉」の意外な活用法
杉は花粉症だけじゃない。意外に万能
■迷惑なだけの存在じゃない
秋にも花粉症で悩まされる人はいるが、これはブタクサやヨモギといったキク科の植物に由来することがほとんど。花粉症患者といえば、春先のスギ花粉に悩まされている人が多いのではないだろうか。アレルギー反応が出てしまう人にとって、杉の木は憎むべき存在かもしれない。しかし、仏壇の前に置かれたあるものの原料にもなっているのだ。
日光市には、世界最長といわれる杉並木が存在する。これが日光杉並木だ。徳川家康に仕えた松平正綱が約400年前に植樹したもので、国の特別史跡・特別天然記念物の二重指定を受けた。いわば街のシンボル的な存在といえよう。
この並木以外でも杉は生産されていて、日光杉といわれている。幹は角材などに用いられるが、葉は乾燥させてお線香の原料として使われているのだ。
日光市では、江戸時代末期の元禄時代から杉線香の製造がはじまったとされる。安価でもくもくと煙をあげる特徴があり、仏事などに使われることが多い。
昔は水車で粉を挽いていて、筆者の親戚も里山の中の小屋で線香づくりを行っていた。現在ではその姿を見かけることはほとんどないが、工場見学を受け付ける施設もあるほど。とくに今市地区では、産業として根付いている。日光山輪王寺でもこの杉線香を使っているという。
香料を入れずに作られたものは、火をともすと杉のすっきりとした香りが漂う。仏壇のある家庭ではこの清々しい香りが広がっていて、筆者にとっては「おばあちゃんちの香り」といえる。
杉の花粉は使われていないので、いわゆる花粉症の人でも使えることが多い。実際に筆者の家族にも重度の花粉症患者がいるが、杉線香に反応したことはない。ただし、杉そのものにアレルギー反応を示すこともあるので、異常が見られたら使用を中止しよう。
花粉症患者は増え続けているといわれ、杉の木の伐採を求める声も少なくない。しかし、杉は線香の原料になるだけでなく、二酸化炭素の吸収力に優れ、地球温暖化を防ぐ効果もあるという。
杉の産地・今市に生まれながら花粉症を発症した身としては、杉を憎みたくなる気持ちはわからなくない。しかし、ただ害をまき散らすだけではなく、役立っているということも知ってほしいと願うばかりだ。
本誌10月号では、「鉄道って、おもしろい」という特集を展開している。杉の産地である今市地区の玄関ともいえる、下今市駅から発着する「SL大樹」に関する連載コラム「鉄道遺産を往く」も掲載。秋はスギ花粉の飛散が少なく、SLに乗りながら杉林の中を走り抜けるチャンスなので、足を運んではいかがだろうか。