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成果があがらない人に持ってほしいトヨタ式「なぜ?」の思考

トヨタ式5W1H思考・カイゼンの極意

■ケース2、ムダな資料を一掃したい

 トヨタ式に「資料をつくったつもりが紙量や死量になっていないか」という言い方があります。当人にとってはとても大切な仕事であり、会社にとっても大切な資料だと思って作成したにもかかわらず、実際にはあまり読まれず、活かされもしないとすれば、これほどムダなことはありません。

 こうした「読まれず」「活かされず」、一体何のためにあるのか分からない資料のことを、トヨタ式では「紙量」や「死量」と呼んでいます。

 ある企業の創業者Bさんがこんな経験をしました。

 Bさんの会社は今から20年近く前に株式を公開しました。Bさんにとっては創業以来の苦労が報われた瞬間であり、喜んだBさんは株式公開を担当した部署の人たちに「毎日の自社の株の売買数などを書類にして報告してほしい」と依頼しました。

 最初は届けられる報告書に熱心に目を通していたBさんですが、数カ月も経つと関心は薄れ、担当部署にこう言いました。「見る時間もないのでもう届けなくていいよ」。

 それから5年後、Bさんと担当部署の部長が雑談をしていると、部長が何気なくこんな言葉を口にしました。「そういえば社長、最近は株の売買数の報告書をご覧になっていませんね。必要ならいつでもおっしゃってください。全部残してありますから」。

 言われてBさんは驚きました。Bさんは何年も前に報告書への関心が薄れ、「もう届けなくていいよ」と伝えてありましたが、部長によるとたしかに「届けなくていいよ」とは言われたものの、「もうつくらなくてもいいよ」とは言われなかったため、担当者は「いつ見たいと言われるか分からないのでつくっておこう」と考えて、その後5年もの間、誰も見ない書類をつくり続け、そして全部保管していたのです。

 Bさんにとってこれは大変ショックな経験でした。部長の話を聞いて、Bさんは「なぜいまだに誰も必要としない報告書をつくり続けているのか?」という疑問を持ちましたが、その答えは「誰も『もうやめよう』と言わなかったから」でした。

 同時にBさんは「ひょっとしたらうちの会社にはこういう仕事が山とあるんじゃないか?」という疑問も持ちました。

 間接部門に限らず、営業部門でも生産部門でもたくさんの書類をつくっています。最近では書類作成に時間をとられるあまり、管理職が肝心の「現場へ出る」時間がなくなっているというのもよくある話です。

 もちろんこうした書類もある時点では「意味があった」はずですし、「誰かが必要とした」はずです。でも、今はどうなのでしょうか?一つひとつの書類について、「これは何のため?」「これは誰のため?」「なぜこの書類が必要なのか?」と問いかけたなら、「やめても影響のないもの」がたくさんあるはずです。

 かつてパナソニックの創業者・松下幸之助さんが、本社が事業所から上げさせる報告書の数が240種類もあると聞いて、こう提案しました。「明日会社が潰れると困るから、明日潰れることに関係のあるものだけは残すけれども、それ以外は全部やめてしまってはどうか」。書類というのはつくるのも大変なら、読むのも大変です。結果、残った報告書は42種類と6分の1になり、ムダな時間は減り、判断スピードも格段に上がることになりました。

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桑原 晃弥

くわばら てるや

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ生産方式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)などの制作を主導した。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『ウォーレン・バフェット成功の名語録』(PHPビジネス新書)、『伝説の7大投資家』(角川新書)、『トヨタのPDCA+F』(大和出版)など。バフェット関連書籍多数。


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