【チリツモ多重債務激増】コロナ禍の巣ごもり消費の功罪——簡単便利なスマホのキャリア決済で脅かされる「収入減」の暮らし
緊急事態宣言が首都圏、関西圏ふくむ10都道府県に繰り返し発出・延長される現在、多くの人々の暮らしが切迫している。具体的には飲食を中心とした対面接触のサービス業は特に影響を受け、コロナ自粛を強いられる現況において、逆に「巣ごもり需要」はたしかに増えてはいる。
しかし、この需要に潜む盲点があった。スマホのキャリア決済という簡単便利、ボタン一つで支払い完了という課金システムにより多くの人が「知らぬ間に」借金を重ねているというのだ。多重債務、過払金請求問題解決の第一人者で「消費者金融が恐れる司法書士」の杉山一穂氏に、この新たな「チリツモ借金」の恐怖について訊いた——
■多重債務者の傾向が変わってきた
最初の緊急事態宣言発出から1年。アベノマスク、特別定額給付金など新型コロナウイルスから命を守るための諸政策を試みるも、中途半端な効果しか及ばず、現状ワクチン接種頼み一択にもかかわらず、被接種者も約710万人(「Our World in Data」5月27日より)のみと、遅々としていることは周知であろう。「不要不急の外出を避ける」「人流を下げる」「リモートワーク推進」などの自明の対策を個人に呼びかけに終始するに至り、反面、集団感染の恐れがある東京五輪の開催を推し進めるという矛盾した政治的判断に、人々の不満も「ピーク」に達している。
もちろん、この不満は、ウイルスから生命を守るための忍耐の限界から生まれているのは言うまでもなく、さらに輪をかけて経済が停滞。人々の暮らしを脅かす収入減が家計(生活費)にも直撃している。しかし、収入減収に応じた暮らしへのシフトはなかなか進まないのもホンネではないだろうか。すなわち、「入金」よりも「出金」が多くなるのが現状なのであろう。
とくに、コロナ禍で巣ごもり消費を余儀なくされた人々は、定額料金を支払うことで利用できるサービス・コンテンツを手軽に利用できる「サブスクリプション方式」やネットショッピングに陥ることも少なくない。また、スマホのキャリア決済の便益と、低額ローンによる決済もその悪循環に輪をかけてしまっている。そして、決済日に追い込まれて、消費者金融での借り入れなどでさらに多重債務となる———。
こうした負の連鎖に、「ストップ!多重債務」を訴えるのが、「司法書士法人 杉山事務所」の代表司法書士、杉山一穂氏である。杉山氏は、多重債務問題や過払金請求問題への相談、解決のために、多くの借金を抱える相談者の声を聞いている。そしてコロナ禍による自粛経済が1年以上も続く現在、明らかに多重債務者の潮目が変わってきたことに警鐘を鳴らす。
「まず、多重債務の相談される方々の多くが、以前よりも苛立っている傾向があると思います。肌感覚ですが、相当に皆さんストレスを溜め込んでいるように感じます。コールセンターからの報告でも、相談者は、連絡時にも攻撃的な応答をされるケースが多いようです。これは、明らかに緊急事態宣言などにより、行動制限されているうえに、収入減などでわが身にふりかかった災厄も影響しているのではないでしょうか」(杉山氏)
杉山氏によれば、現在、コロナ禍による収入減によって、各種サービス業界、中堅企業の社員の相談から、非正規社員や学生など20代の相談が激増しているという。
■「チリツモ借金」による多重債務の恐怖
杉山氏はこう続ける。
「債務相談者が20代でも増えてきたと思います。とくに、巣ごもりによる多重債務の傾向です。具体的にはデジタルネイティブ世代の若者にとってスマホによるキャリア決済は非常に簡単です。自分がいくらお金をつかっているのか麻痺するほどボタン一つでサービスを購入できます。ネットショッピングは言うに及ばず、一件ごとの料金は少額なのですが、例えば、動画配信サービス、スマホゲームなどのサブスクリプション(以下「サブスク」と略記)を利用し、利用せずとも解約をしないために、月々の利用料は支払い続けることになり、結果として固定費は上がってしまうのです。また、ネットゲームの課金(ガチャ)も簡単ですよね。ですから、スマホの通信料を支払う決済日になった初めて『こんなに使っていたんだ』と高額な通信費に困惑するということになっているのです。チリも積もれば山となるような借金を重ねてしまっているのです」(杉山氏)
さらにスマホだけの信用調査で借り入れできる低額のローンが、多重債務を増やしてしまうことになるという。例えば、手取り20万円の若者が、通信費だけで5万円以上にもなっているように、収入の3分の1以上がスマホ代という相談者が増えているのである。
自分が利用しているにも関わらず、スマホの手軽さゆえに忘れ、受け入れてしまう「未必の故意」のような債務に陥っているとも言えるだろう。このキャリア課金支払いのための多重債務へのやり場のない気持ちが不満として苛立ちになっているのかもしれない。あるいは、自分を責めてしまうのかもしれない。いずれにしろ、先行きが見えないゆえのコロナ禍で、収入と支出のバランスを崩しているともいえるだろう。
「もちろん、借金を重ねる方にとって収支バランスが崩れていることは問題ですが、コロナ禍による私権の制約も余儀なくされた現在、皆さんの苛立ちもよくわかります。ただ、借金で自分を責めたり、傷つけたりしてはいけません。貸し手である消費者金融も、貸し倒れを想定しながら融資しているからです」(杉山氏)
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