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倒産か身売りか…そのときジョブズが下した決断とは?

スティーブ・ジョブズのリーダーシップを読み解く。

■徹底した「選択と集中」に舵を切った

 組織にはトップにしかできない決断がいくつもあります。

「倒産か身売りか」という瀬戸際に追い込まれていたアップルに復帰したジョブズが行った決断で最も象徴的なのが徹底した「選択と集中」です。復帰時に40種類もあった製品をわずか4つに絞り込み、不要な製品や人を大胆に切り捨てています。理由はただ一つ、「得意であるはずのことに集中すべし」、ただそれだけでした。

 製品を切り捨てるということは売上げも大幅に低下することですが、ジョブズは次のような言葉で決断しています。

「アップルは売上げ120億ドルの黒字企業にはなれないし、売上げ100億ドルの黒字企業にもなれないが、売上げ60億ドルの黒字企業にはなれる」

 もちろんその先にはイノベーションによってアップルを再生してみせるという目論見と自信があったわけですが、それにしてもここまで大胆に「捨てる」のはまさにトップにしかできない決断と言えます。

 以来、ジョブズは目指すべき方向を大胆に示して、そこにすべての資源を集中することで数々のイノベーションを起こすことになりますが、それは同時に「何をやるか」以上に「何をやらないか」を決めることでもありました。

 企業は成長するにつれ、「何でもやりたがる」ものですが、ジョブズは「何かを捨てないと前に進めない」や、「手がけなかった製品も、手がけた製品と同じくらい誇りに思っている」といった言葉が示すように、「これはやらない」「これは捨てる」と常に「焦点を絞り込む」ことでアップルを成長させ続けています。

 こうしたこだわりは個々の製品開発でも随所に発揮されています。つくるのなら「最高の製品」をつくることを目指すジョブズは自らが「卓越のものさし」になることで社員の卓越いがの仕事に常に「ノー」を突き付け、その能力を限界まで引き出そうとしています。こうしたジョブズのリーダーシップを最もよく表した言葉があります。

「多くの企業はすぐれた人材を抱えている。でも最終的には、それを束ねる重力のようなものが必要になる」

 どの企業にもすぐれた人や技術があります。しかし、トップの人間がそれを理解しなかったり、正しく方向性を示すことができなければ、決してその人や技術が生きることはありません。リーダーには方向を指し示すこと、捨てること、「ノー」を言うこと、ものさしになることといった数々の責任があります。そんな重力のようなリーダーがいてこそ最高の成果も得られるのです。

 ジョブズから学ぶべきもの、それはこうした「リーダーのあり方」なのです。

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桑原 晃弥

くわばら てるや

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ生産方式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)などの制作を主導した。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『ウォーレン・バフェット成功の名語録』(PHPビジネス新書)、『伝説の7大投資家』(角川新書)、『トヨタのPDCA+F』(大和出版)など。バフェット関連書籍多数。


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