痩せたい、でも楽したい。平成ダイエット狂騒史 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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痩せたい、でも楽したい。平成ダイエット狂騒史

キーワードで振り返る平成30年史 第20回

■だんだんガチ寄りになってきた

 甘ったれたダイエットは赦さないと平成十七年にはシビアなダイエットが大ブレイクする。ビリー隊長ことビリーブランクスが考案したフィットネスプログラム「ビリーズブートキャンプ」。米軍の訓練が元ネタとあってこれはハード。効き目はあってもハードな運動には耐えられないのがダイエッター。一世を風靡したビリーズブートキャンプもダイエット界の歴史に名を刻みつつ記憶の彼方に去っていった。

 名を刻む、記録する。これもまたダイエットの視点となり得た。文系だからこそできたダイエットとして翌年大ヒットしたのがレコーディングダイエット。提唱者はオタキングの異名で知られた岡田斗司夫。要は摂取した飲食物を記録するだけなのだが、これを矯めつ眇めつ眺めているうちにいろいろな発見があるとか。その著書『いつまでもデブと思うなよ』もヒットしている。

 楽しく運動させる系に強いのがゲーム。ポケットピカチュウで実績のある任天堂が平成十九年に世に問うたのがWii Fit。専用ボードで体重移動を把握しエクセサイズやヨガ、筋トレなどに楽しく取り組めるよう工夫。実は筆者は一時これにハマり、痩せたかどうかはともかく体幹が強くなり脂肪が筋肉に変わっていく実感を大いに感じた。ただ、問題は飽き。これと一頃流行った「美人時計」を組み合わせるといい感じだと思うのだが。それ系の団体の方々にお叱りを受けちゃうかなあ。

 平成二十一年にはDHCのプロテインダイエットなんてのも流行った。DHCが大学翻訳センターの略であることを聞いてびっくりした人もいるだろう。

 同じ年に出版界を席巻したのが巻くだけダイエット。バンドを巻くだけで痩せられると。バンド付きの同タイトルの書籍はこの年のベストセラーランキングの各所で一位を獲得。生粋のモノカキとしてはちょっと悔しい。だけ系では平成二十三年に美木良介考案のロングブレスダイエットも話題になった。

 単に痩せるのではなく理想的な体型に近づける。健康に痩せる。体幹を鍛えてリバウンドしにくくする。なんてより厳しい条件が求められるようになったのが二十一世紀のダイエット。

 その理想に近いのが楽しく運動させる系。楽しい運動といえばなんといってもダンス。平成二十二年にはカーヴィーダンスが、翌年にはあのWiiからJUST DANCE Wiiなんてスグレモノも登場。更にダンスなら任せておけとばかりに、バブル女子のアイドル、往年の大ヒットユニットtrfがDVD『EZ DO DANCERCIZE』を発売すると大反響。「痩せたいなら踊れ」という新たな路線が開拓された。

 平成末期の今日は空前の筋トレブーム。「結果にコミットする」という秀逸なキャッチのライザップもブレイクした。ほんの数年前までは「楽して痩せたい」人が多かったのだが、昨今では割とガチにストイックに自分を追い込むことで結果として痩せればいいという人も増えてきている。そう言えば、今年はフィットネス系の教室が大当たりだったとか。ティラピス、ホットヨガ、ZUMBAにバイラバイラなどなどスタジオ系フィットネスはたしかにハマる楽しさを秘めている。この点はベンチプレスを代表とするジム系トレーニングも同様。東京マラソン、皇居ランナー、競技用自転車乗り、などもここ最近の流行だが既にすっかり定着した観がある。

 次代にはまた楽したい系の巻き返しがあるのか、それともガチ系がこのまま定着するのか、はたまた全く思いもよらない新たな流れが生じるのか。ちょっとワクワクしてしまうのだった。

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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