エスカレーターの「片側空け」から学ぶ法哲学
「片側空け」はじつはルール違反だった!?
■片側を空ける慣習は、「ルール」に違反する
エスカレーターでは片側を空けるという慣習がある。先を急ぐ人が歩いて追い越せるようにするためだ。東京では左側に立ち右側を空けるが、大阪では右側に立ち左側を空ける等、地方によって慣習の違いがある。いずれにせよ、片側空けの慣習は一種の「マナー」として根付いている。
だが、一般社団法人日本エレベーター協会のホームページには、エスカレーターでの歩行について、次のような呼びかけが掲載されている。
「エスカレーターの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提にしています。慣例となっているエスカレーターの片側空けですが、危険や不便をともなう行為だということが、少しずつ浸透してきました。多数の場所でエスカレーターの歩行禁止の呼びかけを始めています」
今年7月から8月にかけて、全国の鉄道会社や自治体等と共に「エスカレーター“みんなで手すりにつかまろう”キャンペーン」が行われていたようだ。こちらでは、片側空けの慣習が望ましくない理由として「片側を空けて乗ることができないお客様にとって危険な事故につながる場合もある」ことが挙げられている。
現在のところ、エスカレーターでの歩行禁止が法律で明文化されたり、罰則規定が明示されたりしているわけではないようだ。だが、エスカレーターを管理する側が「歩行禁止」の「呼びかけ」を公式に行っており、駅等のエスカレーター付近には明確に「歩行禁止」を表示している箇所もあるので、先を急ぐ人がエスカレーターを歩行することや、歩行する人のために片側を空ける慣習は、「ルール」に違反する行為であると考えられる。
しかし、そうは言っても実際に通勤ラッシュ時に駅のエスカレーターで片側を空けずに堂々と立ち塞がろうものなら、後続の人からマナー違反だと顰蹙を買って文句を言われるだろう。マナーを守ればルールに違反するし、ルールを守ればマナーに違反することとなる。