まるでスパイ映画。1980年代「ロシア」のこわい話。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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まるでスパイ映画。1980年代「ロシア」のこわい話。

ほんとうのロシアとモスクワ①

プーチン大統領の鉄拳外交、北方領土問題、ジャーナリストの毒殺まで、日本人から見ると、冷たくネガティブな印象を持ちがちなロシアという国。しかしながら、今年ロシアで行われたサッカーワールドカップ、テニスプレーヤーマリア・シャラポワから、かつての文豪・思想家ドフトエフスキーまで、ポジティブな印象もある。日本国籍保持者は、観光目的でも事前に大使館でビザを申請しなければならないなど、何かと行くのが面倒な国、ロシア。実際、どのような国なのだろうか。複数の証言をもとに迫ってみたい。

■ロシアへのビザ取得ができず、頼ったロシア人

 

 イギリスはロンドンの金融街で、米系金融機関の法人営業として働いていたデレック・デビッド(仮名)さん。彼はスパイ映画で見るようなロシアの“本当の姿”を目撃した。当時まだ20代の若手だったデビッドさん。自分と彼の上司も含めた、モスクワ出張チームのビザ取得など諸手続きのタスクが与えられた。在英ロシア大使館へ連絡し、指示通りにパスポートを始め全ての書類を期限日前に送った。にも関わらず、出張出発前日になっても一向にビザ取得の連絡が来ない。

 この出張は自分の法人営業チームの売上を一気に伸ばすチャンスでもあった。デビッドさんは、何としてもこのモスクワ行きを実現させる為に、この状態から何が出来るかを真剣に考えた。そこでふと思いついた。ロンドンの金融街での業界仲間として面識のあった、ロシア人のアレクセイ・アフィノゲノフ(仮名)さんに電話をかけ、状況を説明した。

「わかった。15分後にこっちから電話する」

 アフィノゲノフさんはそう言って電話を切り、実際に15分後にデビッドさんの会社の自席へ電話をかけてきた。この時点で既に午後。翌日の出張の可否を決定する時間は限られていた。

「今すぐに、ケンジントンにあるロシア大使館に行ってくれ。ただ、正面の門から入らずに、門の西側に歩いて左に曲がり、その後最初に左に見える細い路地に入り、ブザーを押してくれ。誰かが応答するはずだから、そこで 、“アフィノゲノフの友達だが、ムサトバに会いに来た”、と言ってくれ。今度パブで会った時は、ビールを奢ってくれよ」

 この電話を受けた後、急いでケンジントンへ向かった、デビッドさん。指示通りにロシア大使館の門の西側に歩いた。すると、今まで何度も歩いたことのあるこの通りに、細い路地があることに初めて気付いた。急いで路地へ入り、ブザーを押してアフィノゲノフさんに言われた通りの言葉を発すると、とても大使館職員とは思えないような、みすぼらしい姿の中年女性がドアを開けた。

「お兄さん、気を付けて行っておいでよ。そんな恰好でモスクワ行ったら、凍え死んじゃうよ」

 ふてくされた顔をして、ビザの入った封筒を渡すムサトバさん。ホッとしたジェームズさんは、急いでオフィスへと戻った。

次のページ衝撃の結末が…

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竹鼻 智

たけはな さとし

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住。ITコンサルタントとジャーナリストのフリーランス二足の草鞋を履きながら活動し、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「Number」(文藝春秋)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、現地からの情報を日本へ向けて発信。BEST T!MESでは、イングランド代表HC、エディー・ジョーンズ氏の連載「プレッシャーの力」の構成を担当。


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