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インフルエンザは「なぜ」毎年流行するのか?

夏には流行しない理由、インフルエンザの歴史も。

■5W1HのWHY。

 

 冬の風物詩、インフルエンザ。毎年これが流行するために冬の外来待合室は患者でいっぱいになります。インフルエンザがなくても冬の外来が病人で忙しいのは事実です。冬はいろんな病気になりやすいですからね。しかし、インフルエンザがなければ、こんなに外来が忙しく混み合うこともないでしょうに。

 ときに、質問。インフルエンザってどうして毎年流行するのでしょう。そりゃ、年によって流行の度合いは違いますよ。でも、必ず流行する。まったくやってこないという年はない。そもそも夏はウイルス、どこでどうしてるんだ?

 なぜ、インフルエンザは流行するのか。この「なぜ」という質問は、我々の質問の中で一番高級な質問です。5W1Hとかいいますが、その中でもWhy、「なぜ」に踏み込むのが最も価値が高い質問行為なんです。

 なぜかというと、「なぜ」は一番答えが出しにくいからです。

 例えば、ある人物が自殺したとしましょう。詳細な捜査により、「誰が」「いつ」「どこで」「何を」「どのように」やったのか、は比較的突き止めやすいことでしょう。Aさんが、昨日、自宅で、首をつって死んだ……みたいな感じです。

 が、「なぜ」そんなことをしたのか。それは簡単には分かりません。もしかしたら、Aさんは遺書を残していたりするかもしれません。しかし、その遺書に本心が記されているという保証はどこにもありません。例えば、「世界に絶望した」みたいなことが書いてあっても、実は彼女にフラれたのが本当の自殺の理由かもしれないじゃないですか。世間体を考え、彼女にフラれたくらいで死ぬような男に見られたくなくて、「世界に絶望した」なんて格好いいことを言っているだけなのかもしれません。いや、彼女にフラれたのも本当は「きっかけ」に過ぎず、本当の本当はもっと違う理由だったのかもしれません。本人ですら気づいていないような理由で……。

 とまあ、こんなわけで、「なぜ(Why)」の質問の答えはなかなか正確には得難いのです。その得難さは他のwho, when, where, what, howとは比べ物にならないくらいの難易度です。

 医学の世界でもそうです。いつ、どこで、だれに、何という病気が、どのように起きたのかを記載するのはそれほど難しいことではありません。難しいのは「なぜ」そういう病気が起きたか、なのです。

次のページ言い換えよう。なぜ夏には流行しないのか。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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  • 2018.11.09