インフルエンザは「なぜ」毎年流行するのか? |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

インフルエンザは「なぜ」毎年流行するのか?

夏には流行しない理由、インフルエンザの歴史も。

■沖縄では年中、インフルエンザになる?

 つまり、冬じゃなくてもインフルエンザは活動しているのです。日本でも調べれば年中インフルエンザ患者は見つかります。とくに沖縄のような四季がはっきりしないところではその傾向が強いようです。インフルエンザウイルスは細かく分けるとAとBという2つのタイプがあるのですが、とくにこのBは年がら年中見つかることが多いです。

 

 インフルエンザ・ウイルスは同じ地域でずっと流行の波をアップダウンしていることもあるようですが、他の地域から移動している可能性もあります。南半球で流行したウイルスが赤道を越えてだんだん緯度を高めて北半球での流行に移行していき、その後また緯度を下げて冬になった南半球で流行する、というサイクルが存在するようです(Finkelman BS, Viboud C, Koelle K, Ferrari MJ, Bharti N, Grenfell BT. Global Patterns in Seasonal Activity of Influenza A/H3N2, A/H1N1, and B from 1997 to 2005: Viral Coexistence and Latitudinal Gradients. PLOS ONE. 2007 Dec 12;2(12):e1296)。なぜ、どのようにしてそのような地域の移動が行われるのかは分かっていませんが、興味深い現象だと思います。

 流行のパターンは人の動きに影響されます。動物にも感染するインフルエンザ・ウイルスですが、「通常」流行するタイプのインフルエンザは主に人から人に伝播していくからです。

 人の移動の仕方は時代によって異なります。移動手段がどんどん進歩していきますから。大陸や国によっても違いますし、同じ国内でも都市部と田舎では異なります。戦争があって、その結果多くの難民が生じた場合、ワールドカップやオリンピックのような大きなスポーツイベントがある場合、宗教における巡礼など、様々な複雑な要素が人の移動を決定します。よって、流行の動き方は地域によって細かいバリエーションがあり、先に述べた「冬に流行」というインフルエンザのパターンも大雑把にザックリ概観したものに過ぎません。

 ぼくは千葉県は房総半島の亀田総合病院という病院に勤務していたことがありますが、比較的暖かい房総半島でのインフルエンザ流行は、千葉県北部……東京のすぐ近くよりもずっと遅れて始まっていました。これは気温の影響もあるのでしょうが、東京からの人の移動……例えば(実は千葉県にある)東京ディズニーランドに移動する大量の人たちなどの影響もあったのかもしれません。まあ、これはぼくの個人的な推測に過ぎず、ここでも「なぜ」問題は難しいのですが……。

次のページ「天体の影響」インフルエンザの語源。

KEYWORDS:

オススメ記事

岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

インフルエンザ なぜ毎年流行するのか (ベスト新書)
インフルエンザ なぜ毎年流行するのか (ベスト新書)
  • 岩田健太郎
  • 2018.11.09