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仏教導入によってアマテラスの神格がおとしめられた?!

聖徳太子の死にまつわる謎⑯

■無視できぬ朝廷のあやしげな態度

物部氏の廃仏行為『少年日本歴史読本. 第七編』萩野由之編 博文館刊 国立国会図書館蔵

 聖徳太子暗殺の動機という点から考えると、蘇我氏と物部氏が真っ先に疑われる。しかしそうなると新たな矛盾が生じてくる。

 つまり、もしこの両者のどちらかが単独で犯行におよんだとすれば、朝廷は『日本書紀』のなかで当然これを糾弾してしかるべきである。ところが、『日本書紀』は聖徳太子の死を単なる病死としてとらえている節があり、聖徳太子暗殺説を言外に否定して しまっている。
このような朝廷の不自然な態度の裏には、次のような思惑が潜んでいたことを物 語っている。

 すなわち、朝廷にとっても聖徳太子の存在を消し去りたいとする思いは、他にひけをとらぬほど強かったのではないかということである。
その理由の第一は、第1章で述べたような外交政策をめぐるすれ違いである。六~八世紀にかけての動乱の日本史を動かしていたものは、まさに朝鮮半島をめぐるかけひきだった。多くの事件が外交問題によってひきおこされていた現実からみても、親百済外交を捨ててしまった聖徳太子を抹殺しなければならない動機が、朝廷には十分備わっていたはずである。 

 それだけではない。これも前述したように、聖徳太子は日本の近代化をめざし、日本に律令制度を導入しようと画策した中心人物である。旧態依然とした当時の社会制度のなかで、甘い汁を吸ってのうのうと生きていた旧豪族や守旧派の皇族にとって、太子の存在はさぞやうとましかったにちがいない。 
さらに聖徳太子は蘇我色の濃い皇族である。これも朝廷にとっておもしろいはずがあるまい。 

 

『日本書紀』舒明即位前紀によれば、聖徳太子の子・山背大兄王の異母弟・泊瀬仲王の言葉として、次のような記述がある。 
「われわれ親子(聖徳太子や山背大兄王を含めた上宮王家)は、みな蘇我から出ている。 これは誰もがよく知るところだ。したがってわれわれは、蘇我氏を高い山のように頼りにしている」

 この泊瀬仲王の供述が事実とすれば、聖徳太子や上宮王家は、みずからが蘇我氏出身の皇族であることをかなり意識していたことは明白である。したがって、この一族が朝廷を牛耳ることは、他の反蘇我系皇族にとって脅威であっただろう。 

 しかも、聖徳太子は積極的に仏教導入を推し進めた人物である。アマテラスという神道の最高神を皇祖にもつ大王家にすれば、仏教導入によってアマテラスの神格がおとしめられるような事態は、なんとしてでも阻止しなければならなかったはずである。

〈『聖徳太子は誰に殺された?』〉より

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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  • 2015.07.18