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【大本営発表で大阪は大混乱】オンライン授業普及を阻む「現場無視」という課題

第81回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

オンライン授業


 より良い教育にはボトムアップ、つまり現場の声が重要だ。まだ準備段階である学校が多いオンライン授業では特にそうだろう。しかし、その真逆とも言える事例が大阪市で起きた。この混乱を今後に活かせれば良いのだが…。


■市長による鶴の一声が混乱を招いた

 決められたことであれば、納得できないことでも従うのが教員の仕事なのだろうか。子どもたちに不都合があったとしても、教員は黙っているべきなのだろうか。
 菅義偉首相が新型コロナウイルスで3度目となる緊急事態宣言を東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に発令したのは、4月23日のことだった。それに先立って吉村洋文大阪府知事が政府に発令を要請する意向を示したのが19日で、同じ日に早くも大阪市の松井一郎市長が、緊急事態宣言下においては、小中学校でオンライン授業を原則とすると発言している。

 この松井市長の発言に慌てたのは市教育委員会(市教委)だ。翌日から検討を始め、21日にオンライン授業を学校に指示することを決めた。各学校に通達したのは22日である。本来は教育委員会が決めることを、市長が決めて、マスコミにまで発表してしまったことになる。

 それにも関わらず、市教委は市長に抗議していない。市長の発言に従って学校への指示を出したことになる。
 市教委以上に驚いたのは各学校現場である。それまでに何の打診も指示もなく、突然、市長が「原則オンライン授業」を公言したのだ。しかも、それを知ったのはマスコミ報道によってである。

 学校現場が慌てたのは、とてもオンライン授業のできる準備が整っていなかったからだ。昨年からの新型コロナウイルス禍で全児童生徒に1台のICT端末を配布する文科省の案が前倒しされ、今年3月末までには大阪市でも実現していた。
 とはいえ、即座にオンライン授業ができるわけではない。端末操作から授業のコンテンツ、教員の知見や技術がなくてはオンライン授業はできない。そういうものが整っていない中、いきなり「原則としてオンライン授業を実施せよ」と迫られても、無理な話である。

 それは、市教委も分かっている。そもそもオンライン授業のためには双方向通信ができるネット環境が必要になるが、整っていない。市内の小中学校で一斉に双方向通信を行えば、回線がパンクしてしまう状態だった。
 そこで市教委は22日の通知で、回線を使える日時を地域ごとに割り振っているが、それも1週間に1回、時間も35分だけというものであった。
 それでも市教委は、オンライン授業を否定するでもなく、オンライン授業を前提とする午前中の自宅での学習を学校に押し付けた。まともな環境にない中で自宅学習を指示されても、困るのは子どもたちである。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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