なぜ人は “過労うつ” になるのか?【林直人】
「資本論」が解き明かした仕事をつまらなくする原因
コロナ禍で「働き方」あるいは仕事そのものが変容してきた現代。仕事を失う人も増加する一方、仕事が忙しすぎて “過労うつ” になる人もますます増えている。『うつでも起業で生きていく』(河出書房新社)の著者で、長年うつを患いながら会社経営を続けてきた起業家の林直人が、過労うつになる原因について語った。
コロナ禍で、「K字型経済」という言葉が取り沙汰されることが増えました。「K字型経済」とは、飲食店や観光産業などに代表される絶不調な産業と、ネット関連に代表される絶好調な産業で大きく格差が生まれていることを指す言葉です。
そうした中で世の中の多くの人の悩みも二つに分かれています。一つは「仕事がない」という悩みです。もう一つは、「仕事が忙しすぎる」「仕事がつまらない」「仕事を辞めたい」という悩みです。これもネット関連の仕事などを中心によく聞く悩みです。
■仕事がつまらない原因を解き明かした「マルクス経済学」
このようにコロナ禍では、多くの人が悩みを抱えています。「仕事がない」という悩みについては、ワクチンが普及し、経済が元通りになればいずれは解決する問題ではあります。一方で「仕事が忙しすぎる」「仕事がつまらない」「仕事を辞めたい」といった悩みは難しい問題です。なぜなら、これらの問題はコロナが終息しても、解決しないどころか、経済の回復とともにますます深まっていくであろうことが予測されるからです。
こうした背景の中で、近年、マルクスの「資本論」に大きな注目が集まっています。斎藤幸平氏の『人新世の資本論』(集英社新書)は、この手の新書としては異例の20万部を超える大ベストセラーになっています。マルクス経済学の代表的な書籍である「資本論」は共産主義の本というよりは資本主義分析の本であり、あれだけ多くの人を惹きつけただけあって、現代においても学ぶべき部分が多い書籍です。
■精神をすり減らす「疎外された労働」とはなにか
マルクス経済学の代表的な概念の一つとして、「疎外」という概念があります。
「疎外」された労働というのは、たとえば次のような労働です。
「予め用意されている冷凍の鶏ガラ5つを2ℓミキサーで1分間砕いたのち、圧力鍋にかける。圧力鍋が沸騰したら鶏ガラを捨て、スープの中に鶏もも肉2kgを入れ、再び圧力鍋に掛ける。これが5人以上に売れた場合は、欠品補充するために新たに同様のものを作り直す」。この作業には、ほとんど作業員の裁量がありません。発見もありません。作業員はこの作業をしても自己の存在が肯定されることはなく、さらにこの作業をするのは誰でもかまいません。こうした作業を繰り返すことが、あなたがあなた自身でありたいと思う気持ちを削いでいき、あなたの存在価値そのものを削っていくのです。
では、どのような労働であれば、あなたが生き生きと楽しむことができるのでしょうか。
たとえば、鶏ガラ一つにしても、日本では若鶏が主流のようですが、試しに廃鶏を使ってスープを取ってみる。そうすると案外廃鶏のほうがおいしいスープが取れるかもしれません。また、廃鶏の肉を具として使う場合、燻製にしたら案外いい味が出るかもしれません。おいしいスープを作るにはどうすればよいか試行錯誤することにも楽しみがあるでしょうし、自分が作ったものをお客様がおいしそうに食べていたら嬉しいでしょう。
いずれにしても、労働のあり方にはこのように二種類の労働があります。「疎外された労働」と「疎外されていない労働」、労働にはこの二種類があることをまず心に留めておいていただければと思います。