なぜ人は “過労うつ” になるのか?【林直人】
「資本論」が解き明かした仕事をつまらなくする原因
■ タワーマンションや高級外車が本当に欲しいのか?
では、「疎外された労働」をしている人はなにに楽しみを求めるのでしょうか。「疎外された労働」をしている人は、「生産」に人生の楽しみを見出すことはできません。必然的にこうした人々は「消費」に楽しみを求めることになります。いわゆる悪質商法の勧誘などは、「生産」の楽しみが強調されることはほとんどなく、タワーマンション、高級外車、高級時計に代表される「消費」の楽しみが強調されることから見ても、人々がいかに「疎外された労働」に苦しんでいるかが透けて見えます。悪徳商法に引っかかる人は、普段の労働で自らの人間存在を認められていないからこそ「消費」の楽しみを宣伝するものに引っかかるのです。
これはなにも悪質商法に限った話ではありません。現実の社会そのものが、「疎外された労働」のストレスを解消するために、つまり「生産」の楽しみを提示出来ないがゆえに、「消費」の楽しみを人々に強調します。
しかし、そもそも「消費」はそれほど楽しいものなのでしょうか? タワーマンションは単なる団地ですし、高級外車もただの車です。それ以上でもそれ以下でもありません。そもそもあなたは本当に高級外車が好きですか?
■ なぜ人は「実はそれほど欲しくないもの」のために楽しくない仕事をするのか?
それでも人は、タワーマンションや高級外車を求めます。なぜでしょうか。それは他者を圧倒したいからです。労働で摩耗した自分を、他者からの羨望によって癒やしたいのです。だから多くの人は「自分が好きな商品」ではなく、「他者から羨ましがられる商品」を競って買い求めるのです。本当にそれが楽しい人生でしょうか?
よく考えてみてください。どれほど頑張っても、人生の大半は仕事に費やします。つまらない仕事ですり減った自分を癒すために、他者からの羨望を求め、「消費」の楽しみを追い求める。これが本当に幸せな人生でしょうか?
■「贅沢」はあくまでも資本主義社会が求めていることだ
「贅沢」はあくまでも資本主義社会が人々に求めていることです。あなたがあなたに求めていることではありません。「消費」の楽しみ、ではなく、「生産」の楽しみを仕事に見出すことが、自分の人生を資本主義社会から取り戻し、あなたがあなたの楽しみの一手段として資本主義社会と使いこなす鍵になります。「生産」の楽しみを選ぶか、「消費」の楽しみを選ぶか。この選択が、あなたを「資本主義社会」の奴隷にするか、「資本主義社会」の主人にするかを決めるのです。
私が『うつでも起業で生きていく』で紹介した「うつ起業」の概念は、このように「資本主義社会」の奴隷になったあなたを「資本主義社会」の主人にするための概念です。資本家の「生産手段(=金儲けの道具)」として使われることから徐々に距離を置きながら、自分自身で「生産手段(=金儲けの道具)」を作っていく。そうした活動の中で今の自分の仕事が持っている「生産」の楽しみに気づいたら、自分の人生を自分でコントロールしている感じが一気に出てきます。そうすると「生産」も含めて自分の人生を楽しめるようになります。そうなればつまらない「生産」の傷を癒すために過剰な「消費」の楽しみを追い求めるようなことはなくなるでしょう。