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安倍外交に見る「失敗の法則」〈後編〉

なぜ安倍外交はうまくいかないのか

■そして日本はFTAを受け入れた

 総理は、TPP11の成立と承認が「無上のよろこび」だとも述べていますが、2012年末、民主党(当時)から政権を奪還する前の自民党は、TPPにたいして否定的な態度を取っていました。言い替えれば、自由貿易の旗手として立たないことを謳っていたのです。

 他方、2010年代のアジアでは、中国の覇権志向の高まりが大きな問題となっています。しかるに中国は、「東アジアに巨大な自由貿易圏を生む」とされるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の参加国の一つ。RCEP交渉に全力を注ぐという総理の発言は、中国の経済覇権に手を貸す結果ともなりかねません。
 なるほど、直前にある「WTO(世界貿易機関)へのコミットメント」うんぬんの箇所は、この点に歯止めをかける意味合いを持っています。日本はアメリカやEUとともに、不公正な貿易を行う国に制裁を科せるよう、WTOの制度を改革しようとしていますが、これは自国の産業に莫大な補助金を出す中国政府を牽制することを狙っているからです。

 しかしこうなると、アメリカやEUにたいして強く出るのは難しい。とりわけわが国は、アメリカに安全保障を依存しています。近著『平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路』で論じたとおり、戦後日本はぶっちゃけ、アメリカの現地妻のようなものなのです。
 総理演説が、「そして何よりも、米国との新貿易協議、いわゆるFFRを重んじます」と続くのは、まったく当然のことにすぎません。はたせるかな、演説の翌日にあたる9月26日、日米両政府は「日米貿易協定(USJTA)」の締結に向けた交渉を始めるという共同声明を発表しました。

 名称こそ「USJTA」ですが、内容を見るかぎり、これは自由貿易協定、つまりFTAです。日本は長らく、アメリカによるFTAの要求は拒否すると主張してきましたが、みごとに屈服したわけです。
 国連総会における総理演説は、その意味で敗北宣言だったと評さねばなりません。自国の戦略や権益を打ち出せないまま、外交を行ったあげく国益を損なうという「失敗の法則」は、しっかり繰り返されたのでした。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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