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ノルウェー縦断の列車旅

思い出のヨーロッパの鉄道紀行

ナルヴィクからは小型機でボードーへ

 最果ての駅のあるナルヴィクからは小型飛行機で南のボードーへ飛んだ。この区間は鉄道がないからだ。そして、再び列車の旅が始まる。

 ボードー駅はターミナル風の堂々たる建物を持つ行き止まり式の駅だった。長い島式ホームが1本だけ。屋根がなく、架線も張られていない非電化路線なので、広々とした感じがした。ヨーロッパというよりはアメリカかカナダのような雰囲気である。

堂々たる駅舎を持つボードー駅

ボードー駅のホーム

 ここを発車する長距離列車は、昼間1往復、夜行1往復のみ。おのずと乗る列車は決まった。ホームの反対側に夜行列車が到着し、列車から降りた乗客があらかた駅舎へと消えて静かになった頃、私の乗った列車はおもむろに丸一日かかる長旅に出発した。スウェーデンと異なり定時運転。10時15分ぴったりの発車だ。同じ北欧でも鉄道の運行スタイルには歴然とした差があるように感じる。列車の先頭に立つのは、往年のアメリカの列車を牽引していたのと似たようなスタイルの電気式ディーゼル機関車だ。この機関車はメルクリンの鉄道模型でお馴染みだっただけに私には親しみがある。

ボードー発列車の牽引機

行先はトロンハイム

 しばらくはフィヨルドに沿って東へと進む。上り勾配が続き、ラッパでも鳴らすような甲高いホイッスルが耳につく。トンネルが多く、その合間に穏やかな海が見える。DF50形牽引の列車に乗った紀勢本線の旅を思い出した。

 40分ほどでファウスケFauskeに到着。若いバックパッカーが何人も乗り込んでくる。早朝にナルヴィクを路線バスに乗って出発すると、ここで列車に乗り継ぐことになるのだ。効率的ではあるけれど、睡眠不足になりそうなのと、ボードーからこの駅までが未乗になってしまう。前日にボードー入りしてゆっくり過ごせたのは、この路線を完乗するためにも正解だったと思う。

 ファウスケを出ると、ようやく進路を変えて南へ向かう。しばらくはフィヨルドに沿って走るが、Rognanを過ぎると、海から離れて山の中に分け入る。

途中駅を発車

車窓から見えるのは雄大な大自然

 12時40分頃、車内放送が入った。まもなく、このヌールラン線NordlandLineの標高最高地点を通過するという。意味不明のノルウェー語に続いて英語で説明があったので理解できた。5分も経たないうちに、今度は北極圏の限界線Arctic Circleである北緯66度33分通過のアナウンス。実にきめ細かい観光客へのサービスである。スウェーデンのノルドピーレン号とは大違いだ。

 カメラを構えているとピラミッド風のケルンの上に地球儀のようなオブジェを置いたモニュメントが現れた。スウェーデンの北極圏通過は文字だけの掲示板だったが、こちらは工夫を凝らしてある。スウェーデンのものに比べるとあまり知られていないけれど、ノルウェーのおもてなしの方が好感が持てる。

北極圏通過のモニュメント

 モニュメントを通過すると、列車は下りにかかる。周囲は何もない荒れ地だ。しばらくは、車窓のハイライトはなさそうなので、食堂車を訪問した。スウェーデンのノルドピーレン号はビュッフェ程度の軽食堂だったので、期待をしないで向かった。ところが、この列車のは本格的なものだったので嬉しかった。とりあえず、鱒とキュウリのオープンサンドウィッチ。それにビールを注文する。サンドウィッチといっても日本のものとは比べものにならないくらいヴォリュームがあり、充分満足だ。

 食事が終わる頃に、列車はモイラーナMo i Rana駅に到着した。少々停車するようなので、ホームに降りてみた。三角屋根に白い壁の駅舎が印象的である。多くの乗客はホームで体をほぐしたりしてリラックスムードだ。車内に戻ると、北へ向かう貨物列車が到着した。単線なので、この駅ですれ違うことになる。胸を張ったようなディーゼル機関車が先頭に立っている。アメリカン・スタイルのディーゼル機関車は老朽化が進んでいたので、それに代わる当時としては新型の機関車だ。今となって思えば、新旧両方のディーゼル機関車を見ることができたわけで、鉄道ファンとしては充実した時期であった。別の駅では、アメリカン・スタイルの機関車が重連で牽引する貨物列車ともすれ違った。日本と違って鉄道による貨物輸送が盛んなようである。

モイラーナ駅で小休止

 ノルウェーの森、数々の湖、カラフルな花々が咲き乱れる名もなき小さな駅。次々と流れ去っていくのがもったいないくらいの充実した車窓だったけれど、10時間を超える長旅で、後半はぼんやりと過ごしてしまった。フィルム撮影だったので、今と異なり、旅の後半の写真は残っていないので記憶をよみがえらせることはできなかった。

貨物列車とのすれ違い

 まわりが薄暗くなった夜の9時過ぎに終点トロンハイムに到着。ここで、慌ただしく首都のオスロへ向かう夜行列車に乗り換えた。狭い個室ながらも寝台車を予約しておいたので、横になると旅の疲れもあって、あっという間に眠りについた。そして目が覚めると、ワープしたみたいに、列車はすでにオスロの近郊を走っている。ノルウェーは日本同様南北に長い国であることを体感した旅でもあった。

トロンハイム駅でオスロ行き寝台車に乗り換え

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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