人間関係に疲れ切っている人へ〜悩みと真正面から向き合うのがすべてではない【沼田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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人間関係に疲れ切っている人へ〜悩みと真正面から向き合うのがすべてではない【沼田和也】

『牧師、閉鎖病棟に入る。』著者・小さな教会の牧師の知恵

 

  この人はとても疲れている───そう感じたとき、わたしは相手の顔を見ない。相手が見ているほうをわたしも見ながら「飲み物いれますね。コーヒーかお茶か、どうなさいます?」。それだけ言って、あとは黙って温かい飲み物を器に注ぐ。そのあいだに相手は気持ちが落ち着いて、なにを話そうかと考えをまとめるのである。

 自分を直視する。相手を直視する。たしかに、そういう態度が必要とされる場面がある。しかし、それはさしあたり今すぐ必要なことではない。あなたは疲れて教会にやってきた。だから今は誰の顔色もうかがわなくてもよい。営業をかけにきたわけでもないのだから、誰とも苦労してアイコンタクトをする必要もない。うまく話せないなら、あるいは話すことが思いつかないなら、あなたはただ黙って教会のベンチに座り、ぼんやりと正面の十字架を見つめていればいい。わたしもその横に座って、やはりあなたと同じようにぼんやりと座り、コーヒーを啜るのだ。そういう曖昧な時間の流れのなかで、どちらからともなく、最初の一言が発せられるのである。

 

「いやあ、たいへんですね」

 

ぐるぐる巡る自分自身から、たまには目をそらしたい。悩みと真正面から向きあうことだけが、悩みと向きあう方法のすべてではない。誰かと、職場でも家でもないところで、ほんの少し、のんびりと立ち止まる。そういう時間は大切だと思う。

 

文:沼田和也

 

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沼田和也

ぬまた かずや

牧師・著述家

日本基督教団 牧師。1972年、兵庫県神戸市生まれ。高校を中退、引きこもる。その後、大検を経て受験浪人中、1995年、灘区にて阪神淡路大震災に遭遇。かろうじて入った大学も中退、再び引きこもるなどの紆余曲折を経た1998年、関西学院大学神学部に入学。2004年、同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。そして伝道者の道へ。しかし2015年の初夏、職場でトラブルを起こし、精神科病院の閉鎖病棟に入院する。現在は東京都の小さな教会で再び牧師をしている。ツイッターは@numatakazuya)

 

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