7.5cmPak40登場までのギャップを支えた「分捕り兵器」
ドイツの機甲戦を支えたバックボーン、7.5cmPak40②
■ソ連軍の76.2mm野砲を、対戦車砲に改造
ドイツ軍が「T-34ショック」「KVショック」に見舞われた1941年6月の時点で、7.5cmPak40は、開発計画こそスタートしていたものの、まだ試作すらなされていなかった。だが戦争は待ってはくれない。そこで考えられたのが、連戦連勝の緒戦に際して、ドイツ軍が大量に分捕ったソ連軍のF-22やF-22USVといった76.2mm野砲を、対戦車砲に改造して「元の持ち主」と戦わせようという案であった。
この改造が施されたF-22はPaK 36(r)、またF-22USVはPaK 39(r)として、それぞれドイツ軍制式兵器の型番を付与された。なお、末尾の(r)はロシアの頭文字であり、ソ連軍からの鹵獲兵器であることを示している。しかもこれらの鹵獲砲は、牽引式の対戦車砲としてのみならず、旧式化したII号戦車の車台とチェコ製38(t)戦車の車台に載せられて対戦車自走砲化され、前者がマルダーII(Sd.Kfz.132)、後者がマルダーIII(Sd.Kfz.139)となった。
新規の生産よりも手持ちのものを改造する方が素早く戦力化できるという観点で考えると、ドイツ軍の要領の良さ、手際の良さに感心させられるが、それだけT-34対策、KV対策が切羽詰まった問題だったともいえよう。そして一時期とはいえ、かようなソ連製の鹵獲砲がドイツ軍最強の対戦車砲(8.8cm砲は本来、高射砲なので該当しない)となり、チェコ製戦車の車体にソ連製の砲を載せた「鹵獲兵器尽くし」のマルダーIIIがドイツ軍最強の対戦車車両になったというのも、なんとも皮肉な話である。
消耗材である砲弾は、両76.2mm砲の薬室を加工することで、Pak40用の弾薬の装填が可能とされ、Pak40用の薬莢に76.2mm砲弾を装着した鹵獲砲専用砲弾も生産された。だが、わずかな口径の差が原因のガス漏れによる威力の低下を覚悟すれば、このような改造が施された鹵獲砲ならば、直接Pak40用弾薬を使用することもできた。しかし、逆に7.5cmPak40で鹵獲砲専用弾薬を使用すると、口径がわずかに大きいため重大な事故を起こす可能性があり危険だった。
なお、後には7.5cmPak40用弾薬の砲弾部に、ガス漏れを防ぎライフリングとの噛み合いを向上させる金属製バンドを巻いた、簡易バージョンの76.2mm弾薬も登場している。
PaK 36(r)は7.5cmPak40よりもわずかに早く配備され、まさにストップ・ギャップの役割をはたした。しかも配備先は東部戦線だけでなく北アフリカ戦線にも送られ、アメリカ製のM3リー/グラント中戦車、イギリス製のクルセーダー巡航戦車やヴァレンタイン歩兵戦車などに対しても、その優れた威力を発揮したのだった。