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戦場におけるPaK40(対戦車砲)の戦い方

ドイツ軍でもっとも活躍した対戦車砲④

■何よりも先手必勝

 まだ薄暗い早朝、小道沿いに敵が進んできた。やがて敵歩兵が散開し、偵察のため森の方へと向かってくる。チクショウ!戦車が先にくれば1発かましてやれるのに。敵歩兵を寄せ付けないため機銃を撃たねばならず、そうすると、この森に私たちが布陣していることがばれてしまう。と、その後ろからT-34が5両進んできた。歩兵を援護するためだ。

 

 私は各砲をつなぐ有線電話で命じる。

「敵はT-34が5両。ベルタ・ツヴァイは右端の、ベルタ・ドライは左端の、私は中央のを撃つ。射撃は私の号令による一斉射撃。ただし自分の目標を速く仕留めた者は、残りの2両を急いで撃て!幸運を祈る!」

「距離800m、全門フォイア!」

 3門のPaK40がほぼ同時に火蓋を切ると、眼前の3両のT-34がガクンと停止し、見る間に黒煙を吹き上げた。同時に各機銃座も撃ち出す。

 と、残る2両のT-34のうちの1両が撃ってきた。ベルタ・ツヴァイの隠蔽砲座の直近で、76.2mm榴弾が炸裂する。

 だが、私の砲がこのT-34を仕留め、ベルタ・ドライがもう1両を片付けた。すると、機銃の追い討ちを受けながら、敵歩兵は潮が引くように一気に後退して行った。

 ほっと一息をつくと、私は歩兵の中尉とともにベルタ・ツヴァイへと向かった。偽装の樹木が半分ほど吹き飛ばされ、PaK40の側面が一部見えている。砲自体は目立った損傷を蒙ってはいないが、砲尾の周りは悲惨な状態だった。榴弾の直撃で、砲員全員がズタズタに引き裂かれて戦死していたのだ。
そう、そしてこれが、一か八かの勝負に敗れた対戦車砲の姿だった・・・

 以上、典型的なPaK40(対戦車砲)の戦い方を物語風に仕立ててみた。装甲で守られ、機動力がある戦車と直接に渡り合う無防備といってもよい対戦車砲の戦いは、何よりも先手必勝であることがおわかりいただけよう。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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