真の国際化まであと一歩。どこか日本とかぶるロシアの今。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

真の国際化まであと一歩。どこか日本とかぶるロシアの今。

ほんとうのロシアとモスクワ⑥

■ロシアには富豪がいる?

 また、筆者が普段暮らしているイギリスのロンドンでは、ロシアと言えば、オリガークと呼ばれる大富豪が高級不動産を買い漁っている、というイメージがよく話題に上る。事実、2013年にロンドンで購入された100万ポンド(当時レートで、約1億5千万円)以上の物件購入者の国籍で、ロシアが一位になっていたというデータもある。しかしながら、イギリス政府によるマネーロンダリング関連の規制が厳しくなった2014年以降、ロシア人によるロンドンの高級不動産購入件数は減り始め、現在も減少の一途を辿っているという。この件に関する記事を掲載した、ファイナンシャル・タイムズ紙によると、一時期ロシア人投資家で溢れたロンドンの高級住宅街は、「モスクワのテムズ川」と揶揄されたほどだが、この波は去ったという。

 余談だが、筆者は2014年に、ロシアのオリガークがロンドンで関わるプロジェクトへ、フリーランスコンサルタントとして働かないかと声が掛かり、当のオリガークとの面接を受けたことがある。一体何故自分にそんな声が掛かるのか不思議に思いながらも、話を聞きに行った。どうも、ロンドンの転職市場で「金融機関のITプロジェクトマネジメントで長年働いた経験があり、英語以外の言語を話す人材」に声を掛けていたという。このオリガークによると、「イギリスの学校で勉強するロシアから来た子供たちが、親からの仕送りをこちらの銀行で受け取るのに難儀している。この可哀想な子供たちを、君の金融IT界での経験と知識を使い、助けてあげて欲しい」、とのことだった。

 一応、真剣に最後まで話を聞き、気になった点への質問もし、どうやらこのロシア人が言っていることは本気だという確信が持てた。同時に、背筋に冷たい感覚を覚えた筆者は、日本人らしく丁寧で礼儀正しい挨拶を済ませ、面接を後にした。この話しには転職エージェントが入っており、面接の翌日に、「他のエージェント経由で仕事が決まった」と、この話を持って来たエージェントに連絡を済ませ、筆者はこの仕事を、意図的に逃した。実際にあった、映画のような本当の話しだ。ちなみに、2014年当時のロシアは、ウクライナ領のクリミア半島を事実上ロシアに併合するなど、国際社会から大きな批判を浴びていた。

 日本人が日本からロシアを訪れる場合、ビザの取得にかかる費用は、自分で全てを手配した場合は、3000〜4000円程度で、2週間以内に発行される。東京の麻布にある、在日ロシア連邦大使館へ直接赴くというプロセスが入るが、行こうと思えば、普通の日本人でも行くことができる。ペーパーワークが苦手な人は、旅行代理店に手数料などを払えば、ビザ取得の手続きは代行して貰える。国境を接した地理的な近さの割には、心理的に遠くに思える、ロシア。冒険心溢れる日本人の一人でも多くが、直接国を訪れ、独自の考察をしてくれれば、両国の関係もより意義のあるものになるのではないだろうか。

KEYWORDS:

オススメ記事

竹鼻 智

たけはな さとし

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住。ITコンサルタントとジャーナリストのフリーランス二足の草鞋を履きながら活動し、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「Number」(文藝春秋)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、現地からの情報を日本へ向けて発信。BEST T!MESでは、イングランド代表HC、エディー・ジョーンズ氏の連載「プレッシャーの力」の構成を担当。


この著者の記事一覧