婚活相手の女性に「性欲の強さ」を求められたら……【石神賢介】
『57歳で婚活したらすごかった』著者・石神賢介のリアル婚活レポート第3回
コロナ禍で少子化が10年進んだと言われるなかで、結婚相手を求める男女は増えているようだ。実際に婚活アプリなどの利用者は男女ともに増加傾向にある。そこで婚活をライフワークにしつつも、本気で結婚したいと願うライター石神賢介氏の最新刊『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)が話題になっている。「BEST TIMESリアル婚活レポート」連載第2回では、石神氏が青山の少人数婚活パーティに参加し、元女優のマイさんと華道の先生のユキコさん、そして電気機器メーカーの秘書室で働くエミさんと知り合う。今回はユキコさんとエミさんとの初デートでの赤裸々な会話を公開。57歳、婚活の真実とは?
■性欲の強さを求められる
華道の先生、ユキコさんとはパーティーの一週間後に、奥恵比寿のレストランで食事をした。彼女はパーティーのときよりもラフなえんじ色のジャケットとデニムで現れた。ただし、Tシャツの襟ぐりはやはり大きく開き、胸の谷間が強調されている。自分の武器だとわかっているのだ。
彼女はよく食べ、よく飲み、よく笑い、よくしゃべる。これだけ人懐こくて、なぜ恋人ができないのだろう?
途中でトイレに立ち、戻ると、ユキコさんは席を移動していた。L字型のソファで斜めの位置で食事する二人には、常識的な間隔があった。ところがトイレから戻ると、極端に近いところまでつめていたのだ。
「元彼と別れたばかりなの」
アルコールが入り、赤みを帯びた笑顔で打ち明けられた。パーティー会場では敬語で会話をしたが、この日は最初からくだけた雰囲気だった。
「なんで別れたの?」
「お金」
「彼に借金があったとか?」
「そうじゃなくて、彼はお給料が少なくて、あまりお金をもっていなかったの。年収300万円くらい。だから、ご飯代もいつも私が出していたんだ。好きだったからいいと思っていたけれど、やっぱりいやになってきちゃった」
愛情だけでは経済的事情を克服できなかった。というか、気持ちが冷めたのだろう。
ユキコさんはまもなく、70代の飲み友だちの男性の養子になるという。その男性には妻子がなく、親も兄弟もすでにいない。ユキコさんは10年前に居酒屋でその男性と知り合った。2か月に1度のペースでご馳走になっている。彼女によると、男女の関係はない。
その男性が半年前に肺がんになり病院に入った。ステージ3だという。ドクターには長くはないと言われたそうだ。
そこで、身内のいない男性から養子の提案があった。身の回りの世話と自宅の整理をする代わりにすべての財産を相続するという。金額は教えてくれなかったが、彼女には、一生働かなくてすむお金と中目黒にあるマンションの部屋が手に入る。
直木賞作家、黒川博行氏の『後妻業』を思い出した。主人公の女が年老いた男をだまして後妻となり、殺害して財産を手に入れる小説だ。さすがに殺害はしないだろうが、近いものを感じた。
ユキコさんは、おおらかなのか、無防備なのか、自分の経済事情も、過去の恋愛も、なんでも話す。
「ユキコさん、明るくて楽しいから、この前のパーティーでももてたでしょ?」
ストレートに聞いた。
「モテたよ」
ストレートに答えられた。
「パーティーの後、男性参加者とご飯、行ったでしょ?」
「行ったよ」
「どうだったの?」
「合わなかった」
「会話が?」
「ううん。体が」
ユキコさんは、パーティーで知り合った男性と食事をして、そこで意気投合して盛り上がり、ホテルに入ったという。
「その日のうちにホテルに行ったの!?」
目の前の相手は20代の遊び盛りではない。分別があるはずの40歳の大人だ。
「行ったよ。してみないと、相性、わからないでしょ? 私はそういうこと、すごく大切だと思ってるの」
「相手の年齢は?」
「48歳。でね、その人、自信がある、って言ったんだ」
「自信って?」
「ベッドで私を満足させる自信」
「ああ……。でも、だめだったんだ?」
「うん。2回しかしなかった。よかったのは最初の1回だけ。朝まで元気に遊んでくれる人じゃないと、私はいやなの」
そうはいっても、その男はおそらく翌朝出勤しなくてはいけなかったはずだ。
「今日、私、帰らなくてもいいよ」
「えっ」
「察しが悪いなあ」
ユキコさんはしらけた表情になる。
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