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中東のメリークリスマス

中東のモザイク国家、レバノンの今①

1926年のフランス統治からの独立以来、イスラム教徒とキリスト教徒が混在する、レバノン共和国。宗教以外の文化面でも多様性を極める国家は、正にモザイクの様を呈する。最近の日本でレバノンと聞けば、カルロス・ゴーンによる日産スキャンダルを思い浮かべる人も多いだろう。この以前も、イスラム原理主義組織・ヒズボラや、イスラエルとの紛争など、何かと危険なイメージが多いのではないか。反面、首都のベイルートは、「中東のパリ」と言われるほどフランス文化の影響を強く受け、洗練された街並みも随所に見られ、食文化はアラブ随一として知られる。首都のベイルートを中心に、レバノンの“今”に迫る。

■キリスト教徒とイスラム教徒が肩を並べる

 建国以来、イスラム教徒とキリスト教徒が紛争と協調を繰り返してきたレバノン社会では、どちらの宗教が国内で多数派を占めるかと言う統計が、過剰な程に重要な意味を持ってしまう。この為、結果が公表された宗教に関する正式な世論調査は1932年に行われた1回のみ。ここでは「およそ53%がキリスト教徒で、残りはそれ以外(事実上、イスラム教徒)」とされた。

 首都のベイルートには、教会などがある西部のキリスト教地区、モスクなどがある東部のイスラム教地区との区分けがあるとされるが、距離的には徒歩数10分程度で行き来が可能。即ち、現在のベイルートでは、キリスト教徒とイスラム教徒が、文字通り肩を並べて共に暮らしている。

 

 そんなベイルートは、この時期はクリスマス・デコレーションが、街の各地を彩る。中でもユニークなのは、街の中心部にあるモハマド・アル・アミン・モスク前の広場に飾られる、巨大なクリスマスツリー。ここには、ヒジャブ(敬虔なイスラム教徒の女性が、頭を覆う布)をまとったイスラム教徒も多く訪れ、眩いイルミネーションに彩られたクリスマスツリーの前で、記念撮影を楽しんでいる。

 中東各地から多くの観光客が訪れるベイルートには、大規模なショッピングモールも幾つかあり、この時期は盛んにクリスマスセールのプロモーションが行われる。サンタクロースの格好をした店員と、無邪気に自撮りに興じる、ヒジャブをまとった買い物中の若い女性の姿も見られる。

 

 現代の商業主義が、クリスマスという習慣に「乗っている」という感は否めない。しかし、ベイルートのこうした一般のイスラム教徒の姿は、ニュースで見かけるような「異教徒と戦う原理主義者」が、いかに大多数の善良なイスラム教徒から乖離した存在であるかを物語っている。

「私たちの宗教の教えでは、他人の信条や、他宗教の習慣を否定する事はよしとしません。私はイスラム教徒ですがが、メリークリスマスと言って、この季節のお祝いをする事には、何の抵抗も感じませんよ」。

 実際に毎回モスクまで行く事は出来ないが、1日5回のお祈りを欠かさないという、スンニ派イスラム教徒の、イブラヒム・カッバラさんは語った。両親がパレスチナからの移民で、レバノンで生まれ育ったイブラヒムさんは、更に続けた。

「レバノンという国は、内戦や周辺国との紛争など、辛い時代を経験してきました。自分はイスラム教徒で、クリスマスはキリスト教の習慣だとか、そんな事を言って平和な雰囲気を台無しにしてしまうのは、勿体ないと思います」

 レバノンで生まれ育ちながらも、パレスチナ系であるという自分のアイデンディティを強調するイブラヒムさんは、敬虔なイスラム教徒でありながら、バーテンダーとして働いているという。ここにもまた、モザイク模様の、現在のレバノンの姿が垣間見える。

 中東のメリークリスマス。ベイルートの街は、独特なお祭りムードが漂っていた。

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竹鼻 智

たけはな さとし

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住。ITコンサルタントとジャーナリストのフリーランス二足の草鞋を履きながら活動し、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「Number」(文藝春秋)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、現地からの情報を日本へ向けて発信。BEST T!MESでは、イングランド代表HC、エディー・ジョーンズ氏の連載「プレッシャーの力」の構成を担当。


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