求められたハーフトラック |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

求められたハーフトラック

電撃戦を支えたハーフトラックSd.kfz.251①

■かくして、ハーフトラックの出現 

 かくして、トラックの後輪を装軌式に変更したハーフトラックの出現を見ることになる。装輪式のトラックよりは高価だが、さりとて戦車に比べればはるかに廉価で数が揃えられる。それに戦車に完全に追随こそできないまでも、トラックよりはずっと戦車に近い不整地走行性能を発揮するため、ついていけないわけではない。しかも装甲を施せば、戦場という「鉄火場」で生身の歩兵をある程度は安全に運ぶことができるではないか。

 すでにハーフトラックのアイデアは、フランス人アドルフ・ケグレスによって実現されていた。彼はロシア皇帝ニコライ2世の専属車両技師を務め、ロシアの豪雪の中でも快適な走行が可能な車両として、ハーフトラックをカスタム・メイドで生み出していたのだ。

 このケグレスのアイデアを大々的に活用したのが、フランスの老舗自動車メーカー、シトロエン社のオーナーであるアンドレ・シトロエンだった。戦間期に大々的な探検隊を組んでシトロエン・ケグレス・ハーフトラックで前人未到の地の探検を行い、ハーフトラックの有用性を世に示した。

 戦車を主力とする機動戦の新しい形(のちの電撃戦)を模索していたドイツ陸軍にとって、戦車の機動速度に追随できる歩兵の存在は不可欠であった。たとえ戦車が迅速に敵の防御陣地を突破しても、後続の歩兵が遅くては、戦闘全体の速度が遅くなるばかりでなく、その間にせっかくの突破口を塞がれてしまう危険性もあった。

 ならば、装甲を施した「かのハーフトラック」に歩兵を乗せて、戦車の後ろをついて行かせればよいではないか!

 こうして、ドイツ陸軍は「鉄火場の装甲タクシー」の実用化に着手したのである。

KEYWORDS:

オススメ記事

白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


この著者の記事一覧