コロナ禍の倒産・廃業・リストラにあえぐ人たちへかける「言葉」はあるか【沼田和也】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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コロナ禍の倒産・廃業・リストラにあえぐ人たちへかける「言葉」はあるか【沼田和也】

聖書の中の絶望的な言葉が希望の言葉より深い慰めになる時

 

 わたしはこういうやりきれない記憶を、今、コロナで苦しんでいる人々に投影してしまうのである。聖書のなかにある、きわめてネガティヴな言葉に、当時わたしは慰めを見いだしていた。

 

「わたしは虫けら、とても人とはいえない。 人間の屑、民の恥。 わたしを見る人は皆、わたしを嘲笑い 唇を突き出し、頭を振る。 『主に頼んで救ってもらうがよい。 主が愛しておられるなら 助けてくださるだろう。』」 詩編 22:7~9 新共同訳

 

 詩編は一つひとつの詩が成立した背景が不明であることが多い。だからかえって自分の状況に重ねやすい。自分などクズだ。虫以下じゃないか。なんの尊厳もありゃしない。そういうきわめてネガティヴな言葉を、わたしに代わって数千年昔の誰かが、すでにツイートしてくれていたのだ。大昔の誰かが、わたしの肩をポンと叩く。「あんたもか。わたしもだよ」。こういうとき、どんな前向きな言葉よりも、絶望的な聖書の言葉が、わたしを慰めるのである。数年前に『JOKER』というあまりにも絶望的な映画が流行した。絶望的だからこそ、希望よりも深い慰めが与えられるのだろう。

 コロナ禍にあって、わたしは宗教者として希望を語るべきなのかもしれない。おそらくそれが牧師としての本分なのだろう。だが、語れない。語ることができないのである。あのお蕎麦屋さんの活気あふれる店員さんたちは、どこへ行った。あの人たちの笑顔は、元気は、どこへ行った。

 

 文:沼田和也(小さな教会の牧師)

 

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沼田和也

ぬまた かずや

牧師・著述家

日本基督教団 牧師。1972年、兵庫県神戸市生まれ。高校を中退、引きこもる。その後、大検を経て受験浪人中、1995年、灘区にて阪神淡路大震災に遭遇。かろうじて入った大学も中退、再び引きこもるなどの紆余曲折を経た1998年、関西学院大学神学部に入学。2004年、同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。そして伝道者の道へ。しかし2015年の初夏、職場でトラブルを起こし、精神科病院の閉鎖病棟に入院する。現在は東京都の小さな教会で再び牧師をしている。ツイッターは@numatakazuya)

 

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